Cross Over
対峙




あれから、数週間ーーー。





倉沢さんは、相変わらずの優しい笑顔で、


何事もなかったかのように管理課へ顔を出していた。





いつも通り、他愛もない話をして、

オフィスを出ていく。







ーーーそんな悪い人には見えないけどな。






倉沢に気を付けろという新崎先輩の言葉を思い浮かべ、納得のいかない小さなため息をつく。





『どうしたの?ため息なんかついて。』





ふと声がして顔をあげると、


丁度頭をよぎっていた優しい笑みが隣にあった。





『倉沢さん・・・』






こちらを見て、にこっと目を細める。







『新崎さんと、何かうまくいかないことでもあった?』





『いや・・そういうわけじゃ・・』




口ごもると、クスっと笑った倉沢さんが、



まっすぐこちらを見た。








『大変だよね。新崎さんを支えるのは。』









ーーーーー。









言葉に目を見開いた。







えーーーー?








倉沢さんは言葉を待つようにまっすぐこちらを見つめている。







『それは・・・どういう・・』





『え?知らないことないよね?付き合ってるんなら。』







ーーーー。






その時。






倉沢さんの表情が、




一瞬変わった気がした。








まるで、人を見透かすような




冷たい目。






・・・・・。







『新崎先輩のこと、何か知ってるんですか?』





体の向きをかえ、



一気に張り詰めた眼差しで、



倉沢さんを見上げる。











少しの間を置いて



倉沢さんがふっと笑った。








『そんな警戒しないで。二人をどうこうしようとは、もう思ってないから。』






あはは、と笑う倉沢さんは、いつもの優しい笑みに戻っていた。











『知りたいなら教えるよ。今日の6時、屋上で待ってる。』





耳元でそう囁いた倉沢さんが、背を向ける。






そのあと、


あ、と何か思い出したように振り返り、



優しい笑顔のまま一言つぶやいた。







『二人が幸せになること、祈ってるよ。』








ーーーーー。








軽くこちらに手をあげ、




倉沢さんはオフィスから出ていった。






ーーーー。



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