Cross Over
始まり
時計の針は5時40分をさしている。
仕事を切り上げ、バッグを取り出したあと、
はぁ、とため息をつく。
今日は朝から、全く仕事が手につかなかった。
夜のことばかり頭に浮かび、
何を話そう、どんなことを聞こう、そんなことばかり考えていた。
バッグから鏡を取り出し、自分の顔を見る。
丁寧に巻いてあるセミロングの髪を、少し手で整えながら、昨夜の澪とのやりとりを思い出す。
昨日ご飯を食べながら、澪に話した結果、予想通りの大声で驚かれた。
でも、
すごいチャンスだし頑張んなさいよー!と、
澪はお酒を飲みながら背中を推してくれた。
純粋に、桐生先輩との約束に喜んでいる自分がいる。
先輩が、自分の消えた記憶の『怜』なのだとしたら、こんな風にご飯に誘ったりするだろうか。
自分が目を覚まして一度も姿を現さないような彼なのだ。
先輩が自分を誘ってくれたことで、
彼が消えた記憶の『怜』なのではという疑問は、気が付けば薄れてしまっていた。
舞い上がっていることも、あるのだろうが。
ただ、純粋に『桐生 怜』という人を、見ようとしている自分がいた。
もし、
このまま桐生先輩を好きになったりしたら…
その時、昨夜澪が言っていたことを思い出す。
『でも、この会社って恋愛禁止だもんねー。』
男性との関わりを自分から避けていたような私は、澪のその言葉を聞いて思い出した。
『そういえば…入社した時に聞いた気がする。』
思い出したように澪の顔を見ると、
飲み干したグラスをテーブルに置いて、澪が言う。
『そんなこと、みんな守ってないけどさ。』
確かに、会社内で付き合ってるカップルがいくつかいると、噂で耳に入ることがある。
定員に手をあげ、お酒を頼んだあと澪が続ける。
『まあ、一応なんか処分もあるらしいし?表向きにはみんな黙ってるけど、そんなこと守ってらんないよねー。好きになっちゃったら、仕方ないもの。そんなの誰にも止められないもの。』
__。
髪を整え終わり、鏡をバッグにしまい、立ち上がる。
好きになっちゃったら、仕方ない。か。
澪のデスクの方を振り返ると、
澪がこちらに気付き、手を振る。
頑張って!というようなポーズをする姿。
今日はまだ少し、残業をしていくようだ。
ふふっ、と小さく笑いながら、澪に手を振って、オフィスを後にした。
仕事を切り上げ、バッグを取り出したあと、
はぁ、とため息をつく。
今日は朝から、全く仕事が手につかなかった。
夜のことばかり頭に浮かび、
何を話そう、どんなことを聞こう、そんなことばかり考えていた。
バッグから鏡を取り出し、自分の顔を見る。
丁寧に巻いてあるセミロングの髪を、少し手で整えながら、昨夜の澪とのやりとりを思い出す。
昨日ご飯を食べながら、澪に話した結果、予想通りの大声で驚かれた。
でも、
すごいチャンスだし頑張んなさいよー!と、
澪はお酒を飲みながら背中を推してくれた。
純粋に、桐生先輩との約束に喜んでいる自分がいる。
先輩が、自分の消えた記憶の『怜』なのだとしたら、こんな風にご飯に誘ったりするだろうか。
自分が目を覚まして一度も姿を現さないような彼なのだ。
先輩が自分を誘ってくれたことで、
彼が消えた記憶の『怜』なのではという疑問は、気が付けば薄れてしまっていた。
舞い上がっていることも、あるのだろうが。
ただ、純粋に『桐生 怜』という人を、見ようとしている自分がいた。
もし、
このまま桐生先輩を好きになったりしたら…
その時、昨夜澪が言っていたことを思い出す。
『でも、この会社って恋愛禁止だもんねー。』
男性との関わりを自分から避けていたような私は、澪のその言葉を聞いて思い出した。
『そういえば…入社した時に聞いた気がする。』
思い出したように澪の顔を見ると、
飲み干したグラスをテーブルに置いて、澪が言う。
『そんなこと、みんな守ってないけどさ。』
確かに、会社内で付き合ってるカップルがいくつかいると、噂で耳に入ることがある。
定員に手をあげ、お酒を頼んだあと澪が続ける。
『まあ、一応なんか処分もあるらしいし?表向きにはみんな黙ってるけど、そんなこと守ってらんないよねー。好きになっちゃったら、仕方ないもの。そんなの誰にも止められないもの。』
__。
髪を整え終わり、鏡をバッグにしまい、立ち上がる。
好きになっちゃったら、仕方ない。か。
澪のデスクの方を振り返ると、
澪がこちらに気付き、手を振る。
頑張って!というようなポーズをする姿。
今日はまだ少し、残業をしていくようだ。
ふふっ、と小さく笑いながら、澪に手を振って、オフィスを後にした。