Cross Over
計画
いつもの昼間。
屋上で一人、
メールの着信音に気付き、携帯を開く。
可愛らしい絵文字がついたメールを読み、
思わず顔が綻んだが、そのあとふと小さくため息をつき、携帯を閉じた。
携帯をポケットにしまい、胸ポケットから煙草を取り出す。
一本取り出し口にくわえると、屋上の手すりから下を見つめながら、頭を抱えた。
一体何やってんだ俺は・・・
しばらく煙草に火をつけるのを忘れ、ぼーっと上から人々を見つめる。
考えれば考えるほど、自分の行動に頭を抱える。
だが、止められない自分がいる。
曇りのない笑顔で自分を見上げる、その小さな顔を思い出し、
小さくため息をつき、顔をあげて、ライターを取りだし煙草に火をつける。
『よっ。お疲れっ』
ふと声がしたほうを見ると、いつもの屈託のない笑みで、こちらを見る笑顔が目に写る。
また、お前か・・。
さっきより深いため息をついて、前を見る。
『あれっ。火っ。』
俺の隣りで、煙草をくわえ、スーツのポケットを探っている佐山に、ライターを差し出す。
『へへへっ。こりゃ申し訳ないっ』
ニッと笑い、わざと手を顔の前にあげて謝るポーズをし、ライターを受けとる。
こいつはほんと、いつも変わんねえな。
佐山のほうを見ずに、前を見つめながら煙草をふかす。
『お前、俺に隠してることあるだろ』
佐山がそのままのノリで問いかけてくる。
『ねえよ』
一言で返事をする。
『・・・女か?』
佐山の言葉に、動きが止まる。
はぁ、とため息をついて、佐山が体の向きを変える。
『まさかお前が、女のことで悩んでるなんてな。』
ため息をつきながら、
佐山が真剣な表情で前を見る。
『今度でいいから、話せよ。』
しばらく、沈黙が続いたが、佐山のほうを見てうなずく。
『ああ。今度な。』
そう言うと、ゆっくり煙草を消して、
屋上から出る。
その姿を、見届けたあと、ため息をついて佐山が声をあげる。
『なにコソコソしてんの』
今までより、少し大きく声をはる。
その声のすぐあと、屋上の隔たりから、黒髪をさらりとなびかせた小さい影が、ひょこっとこちらを覗く。
『なんだ、バレてたの?』
クスクスと笑いながら、こちらに近付いてくる。
『俺、結構敏感なの。俺といつもみたいにここで会うのはいいけど、沙織ちゃんも、覗き見とはちょっとやりすぎなんじゃない?』
その姿に、呆れたようにため息をつきながら、
2本目の煙草に火をつける。
『そんなに俺らの会話探って、どうすんの?』
風になびく黒髪を見ながら問いかける。
すると、その髪を耳にかけながら、こちらを見てくすっと微笑み、
『佐山先輩になら、いろんなこと話すかもしれないでしょ?』
奥に何か秘めた企みの含んだ目で言いながら、こちらを見た。
何かを含んだ目でも綺麗なその表情に少し見とれてしまい、少し咳払いをして、体の向きを変える。
『今日見たとおり、あいつは相当参ってるよ。』
風に目を細めて、手すりに肘をつきながら煙草をふかす。
『でも、あいつのあんな表情は、入社して以来、長い間あいつを見てきたけど、初めて見た。』
『・・・あんな表情?』
煙草の煙を吐き出しながら答える。
『あいつ・・・思い詰めてる中に、たまにすっごい切なそうな、いや、でもすっごい愛しそうに何かを見ているような。優しい目をするんだ。』
・・・・
佐山の言葉に、沙織の表情が一瞬にして曇り、手すりをぎゅっと握り、目を細める。
『あいつが女のことで頭を抱えるなんてよっぽどだぜ?これがわかっても、まだ諦めないの?』
沙織のほうに体をむけ、少し顔をしかめて見つめる。
しばらく沈黙が続いた。
髪でうつむいた顔は見えないが、手にぎゅっと力を入れていた沙織が、ふと顔をあげる。
『今がチャンスかもね。』
顔をあげた沙織は、先ほどの含んだ微笑みをこちらに向けた。
そして、髪をかきあげながら、くるりと振り返り、扉から出ていった。
はあ、と大きなため息をついて、
手すりに顔をうずめた。
『女って怖えー・・・。』
一人煙草をふかしながら、つぶやいた。