Cross Over
ーーー。
莉菜が走り出して行ったあと、
とぼとぼと一人、屋上に来た。
深いため息をついて、
手すりに寄りかかる。
走り出す直前の、涙を流した莉菜の顔が、頭の中を駆けめぐる。
ーーーー。
屋上の扉が、音をたてて開いた。
後ろからゆっくり近づいてくる足音が聞こえる。
『おい。』
いつになく静かで、低い佐山の声が聞こえた。
『あの子を突き返したのか。』
後ろから聞こえる佐山の声に、振り返らず何も答えなかった。
急に佐山の感情的な声が聞こえた。
『何やってんだよ!なんでそんなことすんだよ!お前、一体何考えてんだよ!』
前を向いたまま、何も答えない。
『何逃げてんだよ!しっかりあの子と向き合え!このままだと・・・!』
佐山の言葉に思わず振り向いて声をはりあげた。
『うるせえんだよ!わかったような口きくんじゃねえ!何にも知らねえくせに!』
『わかんねえよ!お前の考えてることなんてなんにもわかんねえよ!あんだけいっつも思い詰めてるほど考えてるくせに!お前と向き合おうと勇気だして来た子を、泣かせて追い返すお前の頭ん中なんか、全くわかんねえよ!』
っーーーー。
『体ばっかり大人になりやがって。やることはやって大人ぶってるだけで、お前の恋愛思考なんて中学生以下じゃねえか!逃げてばっかで、自分ばっか守って!しっかり相手に向き合えよ!』
ーーーー。
まったく言い返せなかった。
佐山の言葉が突き刺さる。
ーーーー。
しばらく沈黙が続いた。
そのあと佐山が落ち着いた声で話し出した。
『すまん。新崎。・・・ちょっと言い過ぎた。』
佐山が目をそらして言った。
手すりのほうを振り返り、
うつむいて言う。
『いや・・・お前の言うとおりだ・・。』
うつむいて目を閉じながらため息をつく。
佐山の言う通り、
確かに俺は、今まで人に心を明け渡さず、人のことにも踏み入らず、うわべの恋愛ごっこばっかりで、
大人のふりしてるだけだ。
ちゃんとした恋愛経験なんかない。
人と向き合おうとせず、逃げてばっかで。
連絡がなくても、
プレゼントまで準備して。
勇気をだして俺に会いに来た莉菜の
気持ちを聞こうとさえしなかったーー。
先ほどの莉菜の泣き顔ばかり、頭に思い浮かぶ。
目の奥が熱くなってくる。
うつむいて目を閉じたまま、つぶやいた。
『・・・付き合ってたんだ。莉菜と。』
佐山が驚いているのを背中に感じる。
『付き合ってたって・・・・いつから・・』
佐山が言葉につまる。
そのままの体勢でつぶやく。
『たった数時間だったけどな。』
静かな風が、髪を揺らしながら吹き抜ける。
ーーーー。
ゆっくりと目を開ける。
その時のことを思い出して。
『俺のせいで莉菜は、
俺との記憶をなくしたんだ。』