Cross Over



そのままの体勢でしばらくいると、莉菜の震えが少しずつおさまってきた。


すすり泣くような声も、先ほどより静かになってきたように思える。




・・・だいぶ落ち着いてきたか




こんなことになったのはもちろん予想外だったが、莉菜が怖がり泣く姿はあまり見たいものではない。




もう大丈夫なのかと伺おうと思ったその時、


突然莉菜がはっと顔をあげた。





『・・・すいませんっ!・・あのっ・・あたしっ・・!ごめんなさいっ・・!』




落ち着いて我に返り、自分の今の体勢を把握したようだ。腕の中で突然、おどおどと慌て出す。




『ごめんなさいっ・・!急にっ・・』



『いや・・。』




薄暗さに目も慣れてきたのか、先ほどよりは莉菜の姿も目で捉えられる。




どうしようかとあたふたしながら、俺の胸に手をあて体を離そうとする。



俺も解放しようとそっと腕を離そうとした。




たが、その時。




頭より
体が勝手に動いていた。




離れそうになった莉菜の腕を引っ張り、
もう一度、腕の中に戻した。





『・・・・・っ!』






莉菜が驚いているのを感じる。






咄嗟に体が動いてしまった。

落ち着かせようと思っていたとはいえ、
男の哀しい性だ。今まで想いを募らせていた子に一度触れてしまえば、このまま離したくないと思ってしまった。





『・・やっぱもうしばらくこうしてろ。また泣かれたら困る。』






思わず強がった言葉を発してしまった。




莉菜は静かに俺の腕の中におさまっている。



その腕にぎゅっと力を込める。




いつかこうしたかった。




思いもよらないことになってしまったが、
莉菜の知らない一面も見ることになった。



これから先、俺がこいつを守っていけたら。





体が咄嗟に動いてしまった以上、もう後戻りはできない。


もうどうにでもなれ。





見ているよりも更に華奢に感じる莉菜の体を、ぎゅっと抱きしめながらつぶやいた。






『こんな時に言うのもおかしいんだけど。好きなんだよ。前から黒川のこと。』





莉菜は相変わらず動かない。





ゆっくり体を離し、莉菜の顔を見る。



莉菜は唖然とした様子でこちらを見上げていた。






『すまん。今しかないと思って。もっとちゃんと告白すべきなんだろうけど。でも。』





莉菜の目をまっすぐ見つめる。




『好きなんだよ。前、最初に会ったあの日から。』




こんな歳になって、こんなにストレートな告白をするとは。自分で自分が恥ずかしかったが、自分が伝えたい気持ちをまっすぐ伝えようとした結果の言葉だった。






・・・・





しばらく沈黙が続いた。




莉菜は相変わらず、呆然と俺を見上げている。







今言うべきじゃなかったか・・。




急に思いもがけないトラブルに巻き込まれ動揺し、先程まで怯えて泣いていた子に、更に気が動転するようなことを言ってしまったわけだ。




自分のいざというときの未熟さに落ち込みそうになった。





『すまん・・。こんな時にそんなこと急に言われても、なんも答えられねえよな。』





自分も少し落ち着こう。




そう思い、抱き締める腕を離そうと緩めたその時。




莉菜が急にうつむいた。






・・・・・?





どうした・・・?





莉菜は何も話さない。



ただ、うつむいている。





その途端、




ぽたぽたと涙がこぼれ落ちているのがわかり、はっとした。






『いや・・。おい。』





気が動転した。


泣かせるつもりはなかった。




くそ・・やっぱり今言うべきじゃなかった。
混乱させ、そんな話したこともないやつに抱き締められ好きだなんて突如告白され、冷静に考えてみたら、動揺して泣き出したっておかしくはない。




『すまん・・泣かせるつもりじゃなかったんだ。悪かった。今のは忘れてくれ。別にいいから』



莉菜の様子を伺いながら焦る。
必死になだめようとした。すると、




莉菜が首を横にふった。





『違っ・・・違うっ・・』




泣きながら首を必死に横にふる。






・・・・?




莉菜を見つめる。




すると、一呼吸置いたあと、莉菜が泣き声で話し出した。





『・・・あたしっ・・びっくりして・・っ・・新崎先輩にそんなこと言われるなんて・・思ってなかったからっ・・あたしのことなんて・・全然っ・・なんとも思われてないし忘れられてると・・思ってたからっでも・・・っ』





涙をぽろぽろとこぼしながら莉菜が言う。





その言葉が終わる前に、思わずもう一度莉菜を強く抱き締めていた。






『ずっと気にしてた。いつ声をかけようかって。そしたら、こんなことになっちまったけど。』




ぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。








『好きだ。』







自分の想いを一言に込める。








そっと腕を離し、莉菜を見つめる。






『俺と、付き合ってくれるか?』







まっすぐ莉菜を見つめる。





目を丸くし俺を見上げていた莉菜が、

ふっと涙目で微笑み、



一回、コクリとうなずいた。







その笑顔を見た途端、ふっと力が抜けた。



緊張した体から一気に力が抜け、安心とそして、この上ない幸せな嬉しさから、


莉菜を見つめて微笑んで、今度は優しくゆっくりと抱き締めた。



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