Cross Over
秘密
『・・・・』
長い話しを、佐山は静かに聞いていた。
聞き終えたあと、
深いため息をつきながら、カウンターに崩れるようにして頭を抱えた。
『・・・すまん新崎。・・・何も知らないくせに俺。』
息を詰まらせるように佐山がつぶやく。
『いや。俺が何も話さなかったから。それに、さっきのお前の言葉はその通りだし。なんも言えねえよ。』
煙草を一本取りだし、火をつける。
薄暗い店内。静かなジャズピアノが流れている。
佐山と来た、いつもの店は、今日は人が少ない。
しばらく沈黙した佐山が、顔をあげ問う。
『今の莉菜ちゃんは、お前と付き合ってたことを覚えてないんだよな・・?』
まっすぐ前を見つめながら、静かに答える。
『・・あぁ。付き合ってたっていっても数時間のことだけどな。』
『付き合ってたのは、数時間って・・・。事故が起きたのは、その故障したエレベーターでの出来事のすぐあとなのか?』
俺の顔を見ながら、佐山がつぶやく。
『あぁ。・・そういうことだ』
持ったグラスの氷が、カランと音を立てる。
しばらくして、佐山がまっすぐ前を見ながらつぶやいた。
『・・莉菜ちゃんが、事故にあったのは、何が理由なんだよ・・?いきなり道路に飛び出したわけじゃ・・』
ゆっくり2本目の煙草に火をつけながら、答える。
煙を吐き出しながら、
思い出すかのように前を見つめ答える。
『・・俺が悪いんだ。それは俺の過去の責任だ。』
うつむき、煙草の火を見つめる。
しばらく何かを考え込んでいたように沈黙していた佐山は、俺の様子から、事故についてはそれ以上何も聞かなかった。
『・・・もし、もし莉菜ちゃんの記憶が戻ったら。そしたらお前・・どうすんだよ。』
佐山が俺を見る。
まっすぐ前を見たまま、視線をそらさず答えた。
『・・自信がないんだ。俺といて、莉菜が幸せになれるのか。莉菜が傷付かないか。』
佐山は静かに俺を見ていた。
そのあと、深いため息をついてつぶやいた。
『お前から、自分のことを莉菜ちゃんに話すことは・・・しないってことなんだな・・・?』
佐山の言葉に一瞬、動きを止める。
だが、そのあと、軽く息をついて答えた。
『このまま莉菜から離れる。近付いてしまった俺が悪い。だが莉菜がもう、これ以上深入りしないうちに。俺から、離れる。』
佐山はそれ以上何も言わなかった。
先ほどの莉菜の泣き顔が頭をよぎる。
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胸が傷むような苦しさで息がつまる。
深いため息をついて、
煙草の火を、ゆっくり消した。