Cross Over
うつむいていた莉菜が顔をあげたことで、
ふと我にかえった。
『すいませんでした・・・ありがとうございました。』
莉菜が申し訳なさそうにつぶやく。
さっきより顔色もよく思える。
『・・もう大丈夫なのか?』
聞いた言葉に莉菜が
まだ万全ではない様子だが、ふと笑顔を浮かべた。
『大丈夫です。ほんと急にごめんなさい。ありがとうございました。』
莉菜がうつむいてる間、
ずっと心配と不安が頭を駆け巡っていた。
それが、
満開の笑顔ではないが、先程より良くなった顔色で笑う莉菜の顔を見て、
少し安堵から、やっと力が抜けた。
ふと、莉菜の手元を見る。
先程渡したミルクティーの缶が握られている。
開けてはいないが、
それで莉菜は頭を冷やしていた。
このままいると、
もしその缶について聞かれた時どう返せばいいかわからないことと、
莉菜への気持ちがいつ溢れてしまうかわからないのもあり、
ゆっくり立ち上がった。
『立てるか?』
『・・・はい』
送っていく、と
思わず言いそうになった。
ぐっと堪える。
『もう遅いから。残業もほどほどにしろよ。』
堪えた代わりに出た言葉に、
もっと気の効いた言葉が言えなかったのかとがっかりする。
まあいいのかもしれない。
もう関われることはないのだから・・・。
『あのっ・・』
もう、これでサヨナラなんだなと思いながら、
莉菜に向けた背中から聞こえた声に、
内心驚き、振り返った。
『あの、ありがとうございましたっ。ずっと、隣にいてくれて』
ーーー!
聞こえた莉菜の言葉に、
一瞬戸惑い、言葉が出なかった。
・・・・。
今にも言い出しそうになる。
ずっと会いたかったと。
無事でよかった。
もう体はほんとに大丈夫なのか。
一人で帰れるのか。
そして・・・
ひどい目に合わせてしまい
ほんとにごめんーーー。
と。
その全てをこらえ、
感情を出さないよう
一言を返した。
『いや。別に気にしてない。』
すぐにまた背を向け、会社を出た。
そのまま一人歩き、停めてある車へ向かう。
車の扉に手をかけた時、
落ち着いてきた頭に、
久しぶりに見た莉菜の顔と、
先程引き止められたあとの、
莉菜の言葉が浮かぶ。
すると、自然と顔が緩んだ。
呆れたような笑みがこぼれる。
『・・・諦め悪い男だな。俺。』
車に乗り込み、
ゆっくりと家路に向かった。