Cross Over
恋心
デスクに座りながら、腕をあげて背中を伸ばす。
そのまま腕時計を見る。
5時か。
定時になったのを確認し、パソコンの電源を切る。
デスクを立ち、バッグの中の小さな箱を見つめる。
受け取れない。
そう言って莉菜を突き返したあの日。
自分へのプレゼントを抱えていた莉菜を思い出す。
莉菜は
受け止ってくれるだろうか。
もう自分に嘘はつかない。
目の前の不安から逃げない。
そう決めて、莉菜に想いを伝えると同時に、渡したいものがあった。
この週末、選んで購入した小さなネックレス。
莉菜のプレゼントを受け取らず、ひどい突き返し方をした罪滅ぼしじゃないが、
莉菜に正直な想いを伝えると一緒に、どうしても、何か想いのこもったものを渡したかった。
莉菜が自分のことをどう思っていても、拒否されたらそれはそれでいい。
ただ、
自分の想いを正直に伝えたい。
この気持ちを全て、伝えたい。
思い出せていない記憶の時のことは、
混乱させないため言わないつもりだ。
今の俺を、莉菜がもし必要としてくれるなら、
その時は、ゆっくり莉菜と一緒に過去も受け入れていこう。全てを話して。莉菜の、ペースで。
『お、今日は早いな。』
佐山が話しかける。
『ああ。』
一言だけ返してオフィスを出ようとする。
その時、ふと、振り返った。
『佐山。』
コーヒーメーカーの前にいる佐山に声をかける。
『ありがとな。』
声に振り向き、不思議そうにこちらを見ていた佐山が、
その言葉にゆっくりいつもの屈託のない笑みで笑った。
『行ってらっしゃいっ』
言わずとも伝わった言葉に、佐山がコーヒー片手に手をあげた。
その笑みに小さくうなずき、オフィスを出た。