Cross Over
さすがに、まだ帰ってはないよな。
エレベーターからおり、ロビーを見渡す。
どれだけ時間がかかってもいい。
莉菜が降りてくるまでロビーで待っていようと思っていた。
ソファに腰かけようと、ロビーに向かい踏み出した。
その時だった。
『今、帰り?』
後ろからの声に振り向き、
その姿を確認する。
沙織だった。
軽く息をつき、体を沙織に向ける。
『今日は早いんだね。』
沙織が微笑む。
『ちょっと用事あってな。』
ふと、莉菜の顔を思い出し、自然と頬が緩んだ。
『・・・・』
沙織の表情が少し曇った気がした。
・・?
いや、
気のせいか。
『お前も、気を付けて帰れよ』
ふと、微笑んで背を向けようとしたその時。
『この間言ってた資料。今日はダメかな?』
沙織の言葉に立ち止まる。
・・・
すっかり忘れていた。
沙織の言葉で以前頼まれたことを思い出す。
沙織のほうを振り返った。
『すまん。すっかり忘れてた。でも今日は・・・』
『もうそろそろ作成してる書類提出しなきゃいけなくて。その資料必要なの。』
言葉を沙織が遮る。
『だめ・・?かな』
上目遣いに沙織が見上げた。
・・・・・
以前断っているところ、
今日も断ることはさすがにできない。
小さくため息をつく。
・・・仕方ない
断念したような表情を向けて、答えた。
『・・わかったよ』
『やったあっ。ありがとーっ』
沙織が腕に抱きついた。