Cross Over



『会社ん中でくっつくなって言ってんだろ。』



ため息をつきながらつぶやく。




ロビーから資料室までの道のりを、
沙織は俺の腕をつかんだまま歩いている。




『いいじゃん別に。誰もいないんだからっ。』




沙織が隣りから
嬉しそうに見上げてくる。




はあ・・。まったく。





『仕方ねえやつだな・・お前は。』




呆れたような笑みを浮かべて、低い位置にある沙織の頭をぽんぽんと撫でる。




えへへと、沙織が頬を赤らめて舌を出した。



 







資料室の鍵をあけ、重い扉を開けて沙織が中に入る。

そのあとに続いて中に入り、大きな音をたてて扉が閉まった。






薄暗く静かな資料室の中、

膨大な資料を見上げる。




『で、なんの資料探してんだよ。』




『えーっとー・・・』





沙織がメモを広げる。






メモを覗き込み、声を出す。





『あー。それか。』






資料室の、パソコンに向かう。





『この資料室にあるものは全部、このパソコンで管理されてんだよ。』




『へえーっ。そうなんだ。』



沙織が寄り添うように、パソコンの画面を一緒に覗きこむ。





『その書類は・・・』




画面を見ながら、スーツのジャケットを脱ぎ、無造作に椅子にかける。





『あった。』






画面に表示された棚へ歩いていく。






この辺なんだけどな。





高い棚を見渡す。







『あった?』





沙織が俺を不思議そうに見上げる。






『・・ちょっとこの辺探してみるか。前見たやつが、違うとこに戻したのかもしれねえしな。』



沙織を見て微笑むと、沙織も微笑んでうなずいた。









シャツの腕をまくり、ネクタイを緩める。





高く並んだ棚を一つ一つ見て回る。



沙織はすぐ隣りの反対側を見て回っている。






そんな遠くにあるはずねえけど・・





その時、沙織の声が聞こえた。





『俊くんっ。』






沙織の声がしたほうへ向かう。






『あったのか?』






近付くと沙織が上を指差した。







沙織の隣りに立ち、指差したほうを見上げる。





棚の一番高いところに、その資料はあった。





・・・まったく。





さすがの俺でも届く高さではない。







資料室の真ん中に立てかけてあった梯子を見る。





『あれで取るしかねえな。』




『あたしが取るよ。』





沙織が梯子のほうへ駆け寄る。





『危ねえから。お前は待ってろ。』




『俊くんよりあたしのほうが、梯子に登ったほうがいいでしょ?』






梯子の横から沙織が言う。






『俊くん下で、支えてて?』






沙織を見て、軽く息をついた。





『わかった。』











梯子を運んできて、動かないようにしっかり持つ。





『大丈夫だ。あがれよ。』





うなずき、
沙織がゆっくり梯子を登る。






今時の若いもんはまったく・・・。スカート短すぎだろうが。




登っていく沙織の足が目線の高さにある。






・・・これが、俺じゃなかったらどうすんだよ。大人ぶりやがってガキのくせに。



呆れるようにため息をつきながら、目を伏せた。







でも、歳でいえば莉菜は沙織と一つしか変わんねえんだな。




そんなことを考えていると、沙織の声が聞こえた。





『取れたーっ!』





梯子の上で沙織が資料を手に振り返る。





『わかったから振り返んじゃねえ。ゆっくり降りて・・・』





そう言った束の間だった。





沙織の体がバランスを崩し揺れた。






『きゃっ!』





咄嗟に沙織の下に入る。上から落ちてくる沙織を受け止めながら床に倒れる。





ーーーーガシャンッ!



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