Cross Over
・・・・・
静かな資料室に沈黙が続いた。
・・・・
沙織が言いたいことは理解できた。
沙織の伝えたいことも、
わかった。
最初は戸惑ったが、
理解できた。
・・・そうだな。
ずっと、
沙織だって幼いままではない。
・・・・・
しばらく考えたあと、
軽く静かに深呼吸をし、
ゆっくり言葉を発した。
『・・・・わかった。』
突然の俺の言葉に、沙織が顔をあげる。
同時に沙織の体を引き寄せた。
『・・・・・!』
腕の中で沙織が驚いているのを感じる。
だが、全く気にせず沙織の腕を強くつかんで床に押し倒した。
抱き締めた腕の感覚から、沙織の体が自分が思っていたより大人の女性になっていることを、この時実感した。
そのまま、沙織の首筋に顔をうずめる。
『・・・・っ』
沙織が小さく呻く。
体は緊張からか、強張っているが、首筋に顔をうずめながら、無理矢理腕を掴み開かせる。
『やっ・・・俊くんっ・・』
沙織が抵抗しようと手を俺の胸に押し当てる。
だが、その手を力強く掴み固定し、片手で背中に手をいれ無理矢理下着を外そうとする。
『んっ・・・嫌っ・・』
『お前から誘ったんだろ?』
首筋に舌を這わせる。
沙織の体がびくっと反応し力が入る。
『やっ・・待ってっ・・』
『俺も男だ。こんなん見せられて黙ってられるかよ。』
『嫌っ・・俊くんっ・・』
沙織の声が響く。
『・・ちがっ・・こんなんじゃないっ・・!こんな風にされたいんじゃないっ・・!』
涙を流しながら沙織が叫んだ。
それを見て、
動きを止める。
そして、
一息ため息をついた。
『するわけねえだろうが。このガキんちょ。』
沙織がはっと見上げる。
ふうと軽くため息をつきながら、沙織の体を起こし、脱いだブラウスを沙織の体にかけた。
『・・・お前の俺に対する気持ちは、よくわかった。』
沙織の目をまっすぐ見る。
『さっき、妹扱いしたのは悪かった。それは謝る。』
沙織が目を見開いて俺を見上げている。
『お前が俺のことをそんな風に真剣に想ってるっていうなら、
俺も、今からお前を一人の女として見て、真剣に話す。』
そう言い、
一息ついて、話し出した。
『まず、そんな風に簡単に男に体を見せるな。』
沙織の肩を優しく掴みながら話す。
『男は気持ちがなくたって、やることはやれる。俺だってそうだ。』
そう言うと沙織が言葉を挟んだ。
『でも今、やれるわけないだろうって・・』
沙織の言葉に首を振って答えた。
『それは、俺がお前を傷つけたくないからだ。お前に手は出せない。わざと驚かせただけだ。』
沙織は何も言わず見上げている。
『お前だって、嫌だっただろうが。あんな風に力任せにされんのは。そんなこと望んでたんじゃねえだろ。だから、俺はお前に手は出せない。』
『・・・どうして』
沙織がぽつりとつぶやく。
一息ついて、真剣な表情で、沙織の目を見た。
『俺には好きなやつがいるからだ。』
沙織の表情が凍る。
『お前のことは可愛いと思ってる。だが、俺は恋愛感情としてはお前を見れない。抱くとしても感情はない。だから。お前を傷つけたくないから手は出せない。』
沙織がうつむく。
『黒川先輩がいるから・・・?』
沙織の言葉に、耳を疑った。
『黒川先輩のことがそんなに好きなのっ?!』
言葉が詰まる。
『お前、どうしてそれを・・』
『あたしだって好きなのに・・・っ!』
沙織の目から涙がぽろぽろとこぼれる。
・・・・・・
『あたしだってずっと、俊くんのこと好きだったのに・・・・っ・・・!』
ずきんと胸が痛んだ。
『沙織・・・』
沙織の頭を優しく撫でる。
『すまない。お前の気持ちに応えてやれなくて。』
泣いている沙織を見つめる。
『だけど。俺には大切にしたいやつがいるんだ。莉菜を守ってやりたい。俺は・・俺は莉菜じゃなきゃ、だめなんだ。』
沙織が泣きながら、俺の言葉にはっと息を止めた。
『すまない。・・こんなことまでさせて。』
沙織の頭をぽんぽんと撫で、立ち上がり、沙織も立ち上がらせる。
『送ってくから。帰ろう。』
沙織の手を掴もうと腕を伸ばした。
たが、沙織は落ち込んだ表情のままうつむいて
何も言わず首を横に振った。
・・・・
沙織を見つめる。
『一人で帰れんのか?』
俺の問いに一度だけうなずいた。
はあ、と一息、ため息をついた。
『沙織・・・』
『もう行って。』
冷めた沙織の声が響く。
『もうほっといて。』
目を合わさず沙織がつぶやいた。
『・・わかった。』
沙織を気にしながら、
椅子にかけた自分のジャケットを手に取る。
そして、静かに扉へ向かった。
扉を出るとき、沙織のほうを振り返ったが、
沙織は動かないまま下を向いていた。
その姿を見ながら、静かに扉から出た。
ーーーーーー。
扉を出てすぐその扉にもたれかかった。
はあ・・・。まさか・・。マジかよ。
深くため息をつく。
振り返り扉を見る。
沙織のために
はっきり気持ちを伝えたが、
中にいる沙織が心配だ。
きっとものすごいショックを受けているのだろう。
女の子が
あんなことまでして・・・
でも
今はきついかもしれないが、
これですっぱり諦められるなら。
沙織が前を見れるならと思い、きつかったかもしれないが敢えてはっきり気持ちを伝えた。
床を見て息をつき、
静かに歩き出した。