Cross Over
勇気
『えー!すごいじゃん莉菜ーっ!!!』
『しっ!澪、声が大きい!』
仕事の合間のランチ中に、
コンクールの案内を見て澪が驚く。
『しかも一番最後に演奏するってことでしょっ!?いつも、すごいベテランの人が弾いてるあの一番最後に。』
コクリとうなずいた。
『・・・さすが莉菜っ。あんたやっぱ、こんなとこで働いてないで、プロのピアニストになったほうがよかったんじゃないの?』
澪の言葉に全力で首を横に振る。
『無理だよっ、プロなんかっ・・・あたしなんかじゃやっていけない。』
うつむいて水の入ったグラスを見つめる。
『ピアノを弾いてると幸せなの。好きな時に自由に弾きたい。この気持ちを忘れずに。あたしは、趣味のままでよかったと思ってる。』
そう言い、澪を見て微笑んだ。
『莉菜・・』
その途端、
澪が、決心したように息をついた。
『決めたっ。このコンクール、絶っっっ対新崎先輩に来てもらおう。』
『・・・えっ!?』
飲んでいた水をこぼしそうになる。
『莉菜だって、聴いてもらいたいんでしょ?』
顔を覗きこむような澪から、視線をそらす。
『そりゃあ、もちろん・・。聴いてもらえたら嬉しいけど・・』
それは自分の望みだ。
一つひっかかっているのは、
先輩とは、あの日以来、
会っていないし連絡もとっていないのに、
急にピアノを聴きに来て欲しいなんて
誘っていいものかと躊躇う自分がいる。
『ねえ、莉菜。』
うつむいて黙っていると、澪が静かに質問を投げかけてきた。
『あんたは、新崎先輩のことを想って弾くんだよね?』
澪の言葉にうなずく。
『今のあたしにはそれしかないから。自然にピアノに伝わるの・・・気持ちが。』
『あんたはそのことだけ考えて弾きなさいよ。自分としっかり向き合って、先輩のことを想って、思う存分、曲に全てを込めたらいいよ。』
澪の顔を見ていると、澪が微笑みながら一度、ゆっくりうなずいた。
それを見て、安心し、また思いを確かめるように、
ゆっくり微笑みながらうなずいた。