Cross Over


夕方。




オフィスで、自分のデスクから莉菜のほうを見る。





パソコンに向かい、真剣にキーボードを打っている莉菜を確認し、

自分のデスクの引き出しをあける。






先ほど莉菜からもらったコンクールのチケット。




1枚。


ではなく、引き出しには2枚入っていた。






あ、弟も連れていくからもう1枚くれない!?
莉菜に言い、いいよと微笑んだ莉菜から2枚のチケットをもらった。






弟も連れていくという咄嗟についた嘘。



あんな風に追い返されたあとに、自分でチケットを渡しにいくなんて、

そんな勇気のいることはなかなかできない。






ここは莉菜のために、



あたしが一肌脱がなくちゃ。







決心し、チケットを見つめていると、ふと横から声がした。







『高本先輩。何見てるんですか?』





声がして隣りを見る。






『沙織ー。なんだ脅かさないでよ。』






沙織を見て軽くため息をつく。






『そのチケット、なんですか?』






ああ。と言い、沙織にチケットを見せる。





『莉菜が、またコンクールに出るんだって。そのチケット。あんたも一緒に行く?』




チケットを手に取り、見つめている沙織に問いかける。





しばらくして沙織が答えた。





『予定空いてたらぜひ、行きたいです。黒川先輩に言えばチケット、もらえます?』





沙織に向かってうなずいた。





『うん。いい席用意してくれるから、莉菜に言いな。行けたら一緒に観に行こう。』





わかりましたと微笑みながらチケットを自分に返し、沙織は自分のデスクへ戻って行った。







ーーーよし。行くか。







チケットを1枚持ち、決意したように立ち上がり、オフィスを出た。








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