Cross Over
闇
もうこんな時間かー・・。
パソコンの画面を見ながら、ふと時計に視線を移す。
針は5時半ごろをさしていた。
そういえば・・
つい先ほど。
澪がデスクに来て、小さな袋を渡してきた。そして、今日は早く帰るからお先にと、笑顔で手を振ってオフィスを出ていった。
最近お互いに残業の日も多く、澪と遅くまで残っていることもあるのに、今日は一人で先に帰るなんて。
なんか用事でもあったのかな。
そう思いながら、澪から先ほど受け取った小さな紙袋を開ける。
中にはクッキーと、メモが入っていた。
そのメモを見た途端、思わず目を見開いた。
"実は今日、新崎先輩に莉菜のコンクールのチケットを渡してきました。
勝手なことしてごめん。でも、先輩はありがとうって、受け取ってくれたよ。
莉菜は頑張って、自分を信じて先輩に想いを伝えて。
今日は、仕事を早めに切り上げて、
クッキーでも食べながら、エントランスでピアノ思う存分弾いてきてください。今日はそこできっと、幸せなことが莉菜を待ってる。
莉菜が幸せになることを、いつも願ってるよ。"
メモを読んだあと、可愛くラッピングされたクッキーを見つめる。
澪・・・・
あたしのために新崎先輩に・・・
澪が一人で企画部へ行ったのかと思うと、
目に涙が滲んだ。
先輩・・受け取ってくれたんだ・・
メモをぎゅっと握りしめる。
エントランスに行こう。
澪のメモから、何か言葉にできない勇気のような優しさのような、力を感じた。
エントランスに・・・
何か幸せなこと・・・・
もしかしたら・・・っ
メモをデスクに置き、
楽譜を手に取る。
オフィスの扉を開け、エントランスホールへ向かった。