Cross Over



足音が響く。



誰もいないエントランスホールを見渡す。







右側の大きなグランドピアノを見る。



ふう、と大きく息をついた。






自分の歩く、ヒールの音がエントランスに響く。




静かに、グランドピアノの前に立つ。






鍵盤をひとつ、指でおさえる。





ホールに透き通った綺麗な音が響く。









先輩が、




あたしのピアノを聴きに来てくれる。





チケットを受け取ってくれた。







それだけでも嬉しかった。







椅子に座る。





先輩が好きだ。



今でもずっと。





この気持ちは変わらない。





両手を鍵盤におき、奏だしたその時。









ーーーーー。







『黒川先輩っ。』








背後から突然声がし、振り向くーーー。












『・・沙織ちゃん。』








長い綺麗な髪を耳にかけて、


沙織がこちらを見てふっと微笑んだ。







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