Cross Over
それからーー。
たまに会社内ですれ違うことがあれば、
軽く挨拶をするようになった。
嬉しいことに彼も私のことは覚えていてくれたのか。
ただ一言、すれ違い様の挨拶だけだが、
返してくれる。
それだけでも嬉しかった。
でも。
もちろん、好きになればその人と進展したい気持ちになる。
だが・・・。
あたしなんかじゃ相手にされない・・。
ずっと挨拶だけしか発展してないし。
彼と付き合うことなんて、到底考えられなかった。
あんなにかっこよければ、そりゃあモテるよ・・・。
考えると心がズキンと痛む。
ため息をつきながら肩を落とした。
でも・・・。
会社でたまに見かける彼は、
女の子たちから騒がれても顔色一つ変えない。
むしろ、
その黄色い声が自分に向けられていることをわかっていないかのようなほど、
見向きもせず通りすぎる。
そんな彼の
冷静で大人な雰囲気に
余計引き込まれてしまう自分がいた。
っていうか。
絶対、彼女とかいるよね・・。
だから、そうなのかもしれない。
さっきより深いため息をついて、時計を見た。
もうこんな時間か。
時計の針は夜9時をさしていた。
ふう、と息をつき、
デスクから立ち上がる。
今日はもう帰ろ・・このままいても仕事全然進まないし。
このあと起きる大きな出来事の予感さえも感じないまま、
いつも通りオフィスを出た。