Cross Over
他の階にあるオフィスに書類を持っていく用事があり、それを終え、一人エレベーターを待つ。
この階、企画部のオフィスがある階だな・・・。
通路の奥を見る。
静かな通路の奥。
企画部のオフィスがある部屋からは明かりが漏れていた。
まだ誰かいるんだ・・。
企画部といえば、この会社の柱。
引き抜きなどでエリートが所属する会社のいわば花形部署だ。
新崎先輩とこんな時に二人っきりになれたらいいのに・・・。
エレベーターが到着し、扉が開いた。
ふと、企画部のオフィスのほうに視線を向ける。
・・・・
軽くため息をつく。
・・・そんな都合のいいこと、あるわけないか。
ゆっくりエレベーターに乗り込む。
その時だった。
誰かが走ってくる足音が聞こえる。
扉が徐々に閉まりそうになる。
その時、
ーーーガンッ!という大きな音と共に、閉まりそうだった扉を止める手が見えた。
閉まりそうだった扉が開いた時、
その視界に映り込んだ姿に、
一瞬にして体が硬直した。
ーーーー新崎先輩っ・・・・!?///
突然のことに言葉が出ない。
まさかっ・・
頭が状況に追いついてくる。
・・・嘘でしょっ・・こんなことって・・///
一気に顔が熱くなるのがわかった。
思わず顔をうつむける。
新崎先輩は、何事もないように
間に合ったというかのように息をつき、エレベーターに乗り込んだ。
『おっ・・お疲れさまです』
赤らめた顔を隠すかのように、うつむき、
声を出す。
『ああ。お疲れ。』
隣に立った新崎先輩が答える。
嘘でしょーっ////・・・!新崎先輩と二人っきりになるなんてっ・・・
緊張と恥ずかしさと嬉しさと、
いろんな感情から胸が脈打ち、今にもパンクしそうだった。
『今、帰りなのか?』
ふいにかけられた新崎先輩の言葉に顔をあげる。
先輩は表情ひとつ変えず、一階のボタンを押した。
・・・話しかけられたっ・・・///
飛び跳ねそうなくらい胸がドキっと高鳴る。
『あっ・・はいっ。最近ちょっといろいろ忙しくてっ。』
恥ずかしさを隠すように、
先輩を見上げて言葉を返した。
見上げた先輩の姿に、胸が更に大きく脈打つ。
どうしよう・・っ///やっぱり・・かっこいいよー・・・っ
胸がきゅんと締め付けられた。
その時。
ガタンッ!という大きな音と共に、エレベーターが大きく揺れた。
『・・きゃっ!』
足元がぐらつき、体勢を崩す。
あぶねっ・・と小さな声で呟きながら、
壁に片方の手をつき、新崎先輩の腕が体を支えた。
『大丈夫か。』
新崎先輩の腕に捕まりながら答える。
『すっ・・すいませんっ。大丈夫ですっ』
体勢を立て直すと、先輩が上を見上げた。
それを見て自分も上を見上げる。
電気は消えている。非常用の薄暗い明かりのみ。
音は何も聞こえず、静まり返っていた。
『・・止まったか。』
新崎先輩の言葉に、体が硬直した。
えっ・・・。止まった・・?
『動かないんですか・・・?出られないんですか・・・?』
恐る恐る言葉を発した。
うそ・・・。止まったの・・・?
そう思った途端、息がつまりそうになった。
『大丈夫だ。すぐに誰か来る。』
新崎先輩がこちらを向き言った。
・・どうしよう・・・どうしよう・・・っ。
自分の手もよく見なければわからないほど暗い。
暗いっ・・・・怖いっ・・
段々目に涙が滲んでくる。
暗いところと、閉じ込められたという不安、怖さから、頭がパニックになりそうになる。
・・・やだっ・・・出たいっ・・。怖いっ・・っ・・どうしよう・・っ・・
隣にいる新崎先輩の腕に無意識に掴まる。
そこからの意識はあまり自分でも覚えていない。
ぎゅっと目を閉じ、早く開いて欲しい、早くここから出たいと、それだけが頭をめぐっていた。
ーーーー。