Cross Over
きっかけ
あれから、何日か自宅療養し、明日から会社に復帰することになった。


彼のこと、そして事故のことを何も思い出せないまま、もやもやした気持ちで仕事に復帰するのは気が進まなかったが、
これ以上仕事を休んで迷惑をかけるほうが心苦しい。


昨夜、我慢できずに自分から澪に連絡をし、
自分に彼氏がいたのか自然に探ろうとしたが、どうも澪からそれらしい会話が返ってくることはなかった。



本当に彼氏がいるのなら、
澪の性格からして、彼についてすぐ触れてくるに違いない。


しかし、澪は病院にお見舞いに来たときも、昨夜の電話でも、彼氏についての質問や言葉を投げ掛けてくることはなかった。



やっぱり、あたしには恋人なんていなかったんじゃ…。



しかし、そう考えると疑問が残る。
母によれば、その彼の話しを以前から母にしていたというのだから。



澪に内緒で付き合っていたとでもいうのか。


そんなことはありえない。


澪はただ一人のなんでも話せる唯一の親友だ。


だとしたら、母がいう『怜』という人物は一体誰なのか。そして、何者なのか。



病室に忘れられていた、煙草とジッポをゆっくりと手に取り、見つめる。

退院する時に、一緒に持ち帰ってきていた。



KOOLと銘柄が書かれた残り本数の少ない煙草。

そして、男性もののブランドだろうか。
シンプルなデザインのシルバーのジッポ。



部屋に返ってきて携帯を見て以来、答えの出ない無限に続く問題を、何日もぐるぐると考えている。


明日から仕事だ。
とりあえず頭を切り替えよう。
もう自分から自然に思い出すのを待つ以外に方法はない。


携帯や部屋の中に彼の形跡がないことから、『怜』という人物が自分の彼氏であるかもしれないこと、そして、その彼からの連絡を待つことにはもうほぼ期待はしていなかった。


明日から頑張ろう。



自分を奮い立たせて眠りについた。

< 7 / 117 >

この作品をシェア

pagetop