Cross Over
どれくらい時間が経ったかわからないが、
ぎゅっと閉じていた目を少しだけ開ける。
ーーーーまだ暗い・・・でも・・。
先ほどより、少し混乱は落ち着いた気がする。
どうしてだろう・・状況は何も変わらないのに・・・
少し開いた目を徐々に開ける。
ーーーその瞬間。
自分の、今の体勢と状況に咄嗟に反応した。
ーーーーーーっ!!!
驚き顔をあげる。
『・・・すいませんっ!・・あのっ・・あたしっ・・!ごめんなさいっ・・!』
・・なっ・・・!えっ!!?////
頭がついていかない。
『ごめんなさいっ・・!急にっ・・』
『いや・・。』
新崎先輩の胸に寄り添い、
腕の中に収まっているこの状況を飲み込んだ途端、
またパニックに陥りそうになる。
ちょっと待って・・!!あたしっ・・信じらんないっ・・・///怖いからって新崎先輩にこんなっ・・・!///
離れようと思うが、動くことすら恥ずかしくどうしたらいいのか混乱する。
どうしようっ!どうしよう・・・・!///
とっ・・・とにかく体を離さないとっ・・
新崎先輩から離れようとした、
その時。
手を掴まれた感覚とともに、
体がふと引っ張られた。
・・・・・?
え・・・・・
『・・・・・っ!』
『・・やっぱもうしばらくこうしてろ。また泣かれたら困る。』
新崎先輩の、低く落ち着いた声が聞こえた。
・・・・・
どう考えてみても、
今自分は新崎先輩に抱き締められている。
嘘・・・・。
体が硬直して動かない。
その時。
抱き締めている新崎先輩の腕に、ぎゅっと力が入った。
・・・・・っ!
いつも見ていた新崎先輩の体温を直に感じる。
目を見開いたまま動けない。
そのまま、
次に聞こえた新崎先輩の言葉に、
耳を疑った。
『こんな時に言うのもおかしいんだけど。好きなんだよ。前から黒川のこと。』
・・・・・・
・・・・・え・・?
ゆっくりと体を離される。
新崎先輩はまっすぐこちらを見ていた。
『すまん。今しかないと思って。もっとちゃんと告白すべきなんだろうけど。でも。』
・・・・なに?・・先輩・・?
『好きなんだよ。前、最初に会ったあの日から。』
・・・・
しばらく沈黙が続いた。
・・・・今・・
・・・なんて・・・
頭の中で何度も、聞こえた先輩の言葉を繰り返す。
・・・好き?
今先輩・・・・好きって・・言った・・・よね・・
先輩を見上げたまま、微動だにできない。
先輩はまっすぐ、私の目を見ていた。
前から・・好きだった?
私のことを・・・?新崎先輩が・・・?
嘘でも信じられる言葉じゃなかった。
まさかっ・・・そんなことあるわけ・・・
その時。
新崎先輩がふと、目線をそらした。
『すまん・・。こんな時にそんなこと急に言われても、なんも答えられねえよな。』
ーーー・・・
その時の先輩の目が。
私の心を動かした。
今まで見たことのない、
悲しいような、やりきれないような、
でも、奥に優しさが見えるような。
視線をそらした先輩の表情から、なんとも言えない切なさを感じた。
・・・・先輩・・。
ほんとに・・・・
ほんとにあたしのことを・・・・っ・・
先輩の目を見て、やっとのことで頭が理解した。
嘘じゃない。
先輩が今、私に伝えてくれたこと。
その目と。
表情。
腕の力。
空気。
全てから感じとる。
そんなっ・・・・こんなことって・・・
徐々に涙が溢れてくる。
こんなことって・・・っ・・・・
思わずうつむいた。
ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。
『いや・・。おい。』
先輩の手が肩を優しく掴む。
『すまん・・泣かせるつもりじゃなかったんだ。悪かった。今のは忘れてくれ。別にいいから』
先輩の焦ったような声が聞こえた。
首を横にふる。
『違っ・・・違うっ・・』
違う・・・そうじゃないっ・・・
言葉を伝えたいが、目の前に起きた状況を理解した心が、涙を止めさせない。
次から次から溢れでる感情に、
言葉がうまく出ない。
『・・・あたしっ・・びっくりして・・っ・・新崎先輩にそんなこと言われるなんて・・思ってなかったからっ・・あたしのことなんて・・全然っ・・なんとも思われてないし忘れられてると・・思ってたからっでも・・・っ』
最初に出会った時のこと。
先輩と初めてすれ違い挨拶したこと。
それから、
ずっと先輩を追いかけていた自分がいた。
その新崎先輩が、
自分を見ててくれたなんて・・・っ・・
溢れ出す感情が止まらない。
自分でも何を話しているかわからなかった。
でも。
言葉を言い終える前に、
気付いたら、
新崎先輩の腕の中に、もう一度抱き寄せられていた。
『ずっと気にしてた。いつ声をかけようかって。そしたら、こんなことになっちまったけど。』
新崎先輩の腕に力が入る。
『好きだ。』
ーーー・・・っ
目を見開く。
・・・・・先輩っーーーー・・・。
ぎゅっと目を閉じ、新崎先輩の胸元のシャツをぎゅっと握った。
目から涙がまた一筋、流れた。
そっと腕が緩められ、新崎先輩を見上げる。
『俺と、付き合ってくれるか?』
今までないほどの真っ直ぐな視線で
新崎先輩は私を見ている。
その目を見て、もう一度確信した。
新崎先輩の気持ちと。
そして、
私の気持ちーーー。
コクリとうなずくと、
先輩が一瞬ほっと安堵したような表情をし、
そのあと、
ふっと笑った先輩の目は
すごく優しかった。
そのままゆっくり、大きな腕に抱き締められた。
・・・・こんな幸せなことって
あるんだ・・・。
神様ありがとう・・。
先輩っ・・大好き・・・。
腕の中で、ぎゅっと先輩の胸に寄り添い、
先輩から伝わる安心感と、その大きな優しい空気に包まれながら、
ふっと、目を閉じた。