Cross Over
しばらく走ったあと、車は大きなビルのような建物の前に止まった。
ここはーーーー。
車から降り、上を見上げる。
『よく来るんだ。ちょっと穴場。』
先輩が上を見上げて言った。
『行こう。』
先輩に案内されるまま、上の階へのぼる。
『ちょっと階段昇るけど、大丈夫か?』
先輩が振り返る。
『全然。大丈夫です。』
返した言葉に先輩が微笑む。
しばらくエレベーターに乗ったあと、
人気のない階段を何階か昇ると、扉が目の前にあった。
・・・・?なんか騒がしい・・人の声・・?
その扉をあけると、ビルの一室がガラス張りになった空間がそこにあった。
うわぁー・・すごい・・こんなところにっ・・。
全面ガラス張りで夜景が広がるその部屋には、たくさんの人がいた。
静かな音楽が流れた、ムードある暗めの店内。
カウンターでお酒を飲む人、テーブルで楽しそうに騒いでいる人、寄り添って話すカップル。
いろんな人が楽しそうにお酒を飲み交わしていた。
『こっち。』
新崎先輩がこちらを見て言ったあと、店の奥のほうへと向かった。
そのあとを追う。
『あら♪俊ちゃんいらっしゃい♪』
カウンターに立っていた、綺麗な女性が声をかける。
『今日は飲んでかないの?』
そう言うと、その女性はふと、私に視線をうつした。
・・・・あれ?もしかして、この人・・・
『悪い。今日は上に用事。』
新崎先輩がネクタイを緩めながら答えると、ニコッと女性が笑った。
『可愛い彼女♪丁度今、上、誰も居ないわよ♪』
女性がゆっくり手を振った。
『今度、佐山とまた来るから。』
新崎先輩がそう言った途端、女性のテンションが急速にあがった。
『弘斗ちゃん!?必ず連れてきてねー!♪絶対よー♪♪』
大きく手を振る女性を背に、奥にある扉に向かう。
あの女性はこの店のオーナーのようだった。
っというか、
聞こえた声と、今前を通るときに近くで見た際に思ったが、もしかしたらあの人は女性じゃなく男性じゃ・・・
うーんと、一人考えているうちに、
奥の扉を新崎先輩が開けた。
『最後の階段。これで着くから。』
微笑む新崎先輩のあとに続く。
外に階段を登った先に広がっていたのは、
この建物の屋上。
都会の夜景が広がる大パノラマだった。
『・・・・うわぁーー・・・!!』
あまりの綺麗さに、言葉を失う。
すごい・・・こんな高さから見る夜景・・・見たことない・・
『すげえ高さだろ。初めて見ると、びっくりするよな。』
手すりに近寄り、夜景を眺めながら新崎先輩が言った。
あまりの綺麗さに、言葉が少なくなりながらもうなずく。
『・・・すごいです。こんな綺麗なの初めて・・。』
都会のビルが小さく並ぶ。
たくさんの光がうごめき、キラキラと輝いている。
『よかった。』
新崎先輩がふっと微笑んだ。
そのまま、仕事の話や他愛のない話をいくつかしたあと、
しばらくの話の切れ間のあと。
新崎先輩がふと話し出した。
『・・・さっきは突然あんな風に告白してしまったけど。』
新崎先輩が体をこちらに向ける。
『本当に、好きだよ。莉菜のこと。』
新崎先輩は優しい目でまっすぐ私を見ていた。
先輩っ・・・
『まだ、全然知らないところも沢山あるかもしんないけど。これから一緒にお互いのこと沢山知っていこう。』
新崎先輩が右手を、掌を上に向けて差し出す。
新崎先輩の顔を見上げる。
『それで。ずっと一緒にいたい。・・居てくれるか?』
優しい表情のまま、でもまっすぐ真剣な目で新崎先輩が見つめる。
新崎先輩の掌に、手を乗せる。
『・・・はい。よろしくお願いしますっ』
恥ずかしそうに呟くと、
そのまま掴んだ手を引っ張り、腕の中に抱き寄せられる。
先輩の背中に手をまわし、ぎゅっと自分からも抱き締めた。
先輩っ・・・大好きっ・・・
また嬉しさで涙が込み上げそうになる。
そのまま。
手すりから夜景を見ていると、先輩が後ろから抱え込むようにしてくれた。
先輩の腕のなかで夜景を見ながら、
幸せな温もりと時間に、ゆっくり身を委ねた。