Cross Over
『そろそろ行こうか。』
後ろにいる先輩が言う。
腕時計を見ると、11時半をすぎたあたりだった。
ーーーーもうこんな時間。
まだ先輩のこと、いろいろ知りたいのに。
仕事の話や、他にも
他愛もない話に幸せを感じているうちに、
時間は刻々と過ぎていた。
うつむいている私に、
後ろから先輩が頭をポンポンと撫でた。
『焦らなくてもいい。』
そして、ぎゅっと後ろから抱き締めた。
『これからずっと、一緒に居れる。』
先輩の腕と、言葉に、
微笑んで、
先輩の腕をぎゅっと掴んだ。
『はいっ。』
ーーーーー。
ビルの階段を手を繋いで、笑いながら降りる。
莉菜は背が小さいだとか、動物みたいだとか、先輩がからかう言葉に、頬を赤らめて反抗していた。
先輩。いつもクールであんまり表情変わらないのに、
笑うとすごい子供みたい・・・。
先輩の笑顔に、きゅんと胸が苦しくなった。
ビルから降りたところで、人気のない道で先輩をふと見つめる。
『どうした?』
先輩が視線に気付き、手を繋ぎながらこちらを見る。
『あっ・・・あのっ・』
至近距離でまっすぐ見つめられ、顔をうつむかせる。
見とれてしまっただけとは言えず、口ごもる。
あっ・・そうだ・・
ふと、顔をあげて言った。
『先輩。どうしてあたしの名前・・。』
エレベーター内で告白したあとから、
先輩は私を下の名前で呼んでいた。
さりげなく呼ばれ、ドキっとしていたものの、聞けずじまいだった。
ああ、と先輩が話す。
『前から知ってる。好きなやつの名前くらい。』
・・・・///
恥ずかしさでうつむくと、
先輩が言葉を続けた。
『莉菜は、俺の名前知ってるか?』
『知ってます!新崎俊・・先輩・・///』
勢いよく顔をあげて、答えたものの、
恥ずかしくなって口ごもった。
先輩を好きになってすぐ。
管理課の全社員が載っている名簿を見て調べた。
新崎先輩がふっと声を出して笑った。
『よく知ってんな。正解。』
まるで小動物か、子供の頭を撫でるように、
先輩の胸の位置くらいにある頭をポンポンと優しく撫でた。
先輩の空気、大きな身体、優しい腕。
全てに安心感があり、ふと安らいだ気持ちになる自分がいた。
先輩の、彼女になったんだ・・・。
先輩が、あたしの彼氏・・。
先輩を見つめる。
こんな人と付き合うことができたなんて・・・。
この幸せがずっと続けばいいと思った。
これから先、どんなことがあっても、
この恋は、終わらせたくないと、そう感じた途端、
幸せな切なさに、胸がきゅっと
締め付けられた。
だが、悪夢が訪れたのは、このすぐ直後のことだった。