Cross Over



ーーーー。





『莉菜っ!』




名前を呼ぶ声にはっと顔をあげる。

 



『新崎・・先輩・・』





薄暗い倉庫の中。





地面に座り込んだ私の目の前に、
血相を変えた新崎先輩が膝をついてこちらを見ていた。




『手・・大丈夫なのか・・!』





手・・・・





新崎先輩の言葉に、ふと視線を下に向ける。






新崎先輩が、私の手を掴み両手を握りしめていた。





呆然としたまま、首を横に振る。





手は、まだ小刻みに震えていた。





『・・大丈夫です。まだ、震えが・・止まらないだけで・・大丈・・』






言いかけた途端。





ふと体を抱き寄せられた。





ーーーーっ・・・







背中に回された手にぎゅっと力が入る。






ーーー・・・・


新崎・・先輩・・・






『・・よかった・・・』







走ってきたのだとわかるような、少し息を切らして、



先輩がつぶやいた。





・・・・




先輩っ・・・・




あたしを探して・・・




開いたままの目から涙が溢れた。









手はなんともなかった。





沙織が降り下ろした手は、


私の右手の隣に降り下ろされ、




金槌を地面に落として沙織は、


何も言わず倉庫から出ていった。







その衝撃からか、



そのあと、頭にひどい痛みが襲った。




そして、


震えた手を抱えて、


頭の中の映像を一瞬にして見た。










全て・・・




全てを思い出した・・・





走馬灯のように一瞬にして、


頭を駆け巡った。







新崎先輩を、




私はずっと、



ずっと好きだったこと。







エレベーターでの出来事。





先輩からの告白。





そして、
 



事故ーーー。









抱き締めているその先輩の背中に、


ゆっくりと手を回す。







思い出したっ・・・・




先輩っ・・・・・







これまでにないほど、




感情が奥から溢れてくる。





涙が次々に溢れてくる。










ぎゅっと先輩にしがみつく。









全ての見る景色が変わった。









世界が


違って見えた。









先輩がゆっくり体を離し、顔を覗きこむ。






その先輩の顔を見た途端、



はり詰めていた感情が溢れだした。







『莉菜・・・』





先輩が名前を呼ぶ、



あたしの・・・下の名前っ・・








・・・・っ






声をあげて泣いた。





全く止まらなかった。









『・・ごめんなさっ・・っ・・・っ』








先輩に向けて出た言葉は、



謝罪の言葉だった。









先輩が不安そうに、
伺うように顔を覗きこみ、


肩を支えながらこちらを見ていた。






『莉菜・・・?』




『突然っ・・走り出して・・・。事故にっ・・。あたしっ・・っ・・・ごめんなさいっ・・・・』

 




言葉を発した瞬間、

目の前にいた先輩が目を見開いたのを感じた。


その場の空気が、一瞬にして変わったのを感じた。






泣きながら、うまく言葉にならない。








『先輩のことっ・・ずっと好きだったのにっ・・・っ・・

嬉しくてっ・・ずっと一緒にいたいって思ったのにっ・・

先輩のこと忘れてしまっててっ・・・ごめんなさ・・・っ・・・』





その時。思いっきり強く抱き締められた。







ーーーー・・・・っ







抱き締められている腕が、強く力を込めるが、



少し震えているのが腕から伝わってくる。








『もういいっ・・・俺が悪い・・』




首を横に必死にふる。






『怖い思いさせて・・・すまない・・』




先輩の言葉に
泣きながら首を横に振る。








『・・もう、莉菜から離れようと思ったんだ。俺といたら、莉菜は幸せになれないかもしれないと思ったから。』





先輩の背中に手をまわし、ぎゅっと抱き締める。





『嫌っ・・・。行かないでっ・・どこにもっ・・行かないでっ・・』



『莉菜・・』



『先輩が好きっ・・・。新崎先輩が好きっ・・・。もう・・もう離れたくない・・っ・・・』






必死に



必死に背中にまわした手に力を込める。




大きな背中にぎゅっと、しがみついた。






思い出した記憶の中で自分は、




先輩に気持ちを伝えていなかった。





先輩からの気持ちは伝わっても、


自分の気持ちを先輩に伝えられていなかった。




もっと、早く、自分の気持ちも先輩に伝えていたら・・。




もしかしたら先輩をこんなに悩ますことも、なかったのかもしれない。





それに、




それ以上にもう、




先輩と離れるのが怖かった。




ただ、



先輩と一緒にいたい。





何があってもずっと、



・・・一緒にいたいっ。







ぎゅっと先輩を抱き締めている腕に力を入れていると、



先輩がゆっくり体を離した。







先輩がこちらを見たその表情は、


まっすぐ、でも切ないような憂いを帯びていた。






『俺と・・・居てくれるのか。』





『・・先輩じゃなきゃ、嫌ですっ。』






先輩の腕をぎゅっと掴む。








ぎゅっと先輩に抱き締められる。






『莉菜っ・・・』



『先輩っ・・・好きですっ・・』





先輩の背中に腕をまわす。




ぎゅっと力を込めて、




先輩の温もりと、体温を体で感じる。










『俺も・・。莉菜が好きだっ・・。』





涙が混じったような先輩の声に、





ぎゅっと目を閉じると涙が、




溢れて流れ落ちた。



ーーーー。




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