Cross Over



落ち着いて倉庫をあとにし、先輩の車に乗り込む。




先輩は自分のマンションへ車を走らせた。








マンションの部屋へ入ると、そのまますぐに抱き締められた。






抱き締める先輩の腕に力が入る。






『先輩・・・っ』






先輩の背中に手をまわし、スーツをぎゅっと掴んだ。




しばらく抱き締め合うと、先輩がゆっくり体を離し、ふと微笑んだ。

 



その優しい目を見て、自然と笑みが零れた。
 






ーーーー。






『ほんとに、帰らないでいいのか?』




部屋の奥。

スーツのジャケットを脱いだ先輩が、

テラスから外の景色を見ながら、水の入ったグラスを持って言う。



隣に立ち、手の中のグラスを見つめながら答える。




『先輩と離れたくないです。・・・一緒にいたい。』







車の中でも、まだ帰りたくないという私の言葉を聞いて、先輩は自分のマンションへ車を走らせた。






今日はもう、帰りたくなかった。



先輩といたい。





今まで忘れていた記憶の分を取り戻したいかのように、そんな想いがあふれてくる。






記憶が戻り、先輩のことを全て思い出した。



記憶がなくても、もう一度私は先輩に恋をした。




先輩は記憶をなくした私のことを、今日まで、ずっと考えていてくれた。



あの日、エレベーターで告白してくれてから。



さっきは、走って私を探しにきてくれた。

 

そのことだけで、胸がいっぱいだった。





『・・莉菜の前から急に立ち去ったくせに、莉菜にまた近付いて。挙げ句の果てにあんな風に傷付かせて。』





てすりに肘をつき、先輩がため息をつく。





『・・・ほんとにごめん。』






下を向き、先輩がつぶやいた。






その切なそうな、自分を責めているような優しい目を見て、



ゆっくり首を横にふる。





『あたしこそ、あんな風に告白してくれた先輩のこと忘れてしまったりなんかして。ほんとにごめんなさい。』




『・・莉菜』



『でも。先輩のこと忘れていても、あたしは先輩を好きになった。先輩も、あたしのことを考えてくれてた。それだけでもう、いいんです。もう、十分だから・・。』




ふと笑って先輩を見上げる。







先輩が今、隣にいる。




いろんなことがあったけど、それでもあたしたちはまたこうして一緒にいる。



そして、二人で気持ちを確かめ合えた。




それだけでもう、




奇跡だと思える。




もう何もいらなかった。
 




『莉菜の目の前から去って、いろんなこと考えたけど、やっぱり俺には莉菜が必要だった。』






先輩がこちらに体を向けた。






『莉菜を想って離れようと思ったのに。俺が離れられなかった。莉菜がいてくれるなら、・・それだけでもう何もいらない。』






先輩がまっすぐ私の目を見つめる。






そのまっすぐな視線に、目をそらせなくなった。





『莉菜』



先輩が名前を呼ぶ。




ふと、先輩が髪に触れる。






ーーー・・・。





その瞬間。




先輩が近付き、唇が重なった。








ーーーー。





優しく触れただけで、唇が少し離れる。






『あたしも先輩がいてくれたら、何もいらない・・っ。もう、離れたくないっ・・。』





先輩を見上げてつぶやいた。




まただ・・。


すぐ感情があふれ、涙が浮かぶ。






先輩が長くて細い指で、私の涙を拭った。






そして、ぎゅっと抱き締めた。
 





『・・もう離さない。何があっても、もう絶対離さない。』




そう言った先輩が、ぎゅっと腕に力を込める。








ーーーー。





先輩の腕から。



体温から。



想いがあふれてくる。





体を通して、その想いが伝わってくる。





うなずきながら、ぎゅっと先輩に抱きついた。







体を離し、先輩が目を見つめる。




先輩の顔が近付き、目を閉じた。



 



唇が重なる。






先程とは違い、深く唇を重ね、背中にまわっている先輩の腕が更に抱き寄せるように強く力を込める。






『・・・・っん・・』



目を閉じて、先輩の腕のシャツをぎゅっと掴む。




先輩の舌の動きに、思わず声が漏れる。







段々と体の力が入らなくなってくる。





ぎゅっと掴んでいたシャツも、手の力が抜ける。







ゆっくり唇が離れ、


息が漏れる。







まっすぐこちらを見つめる先輩を見上げた。





ーーーー。


しばらくそのまま、見つめ合う。




すると、突然。





先輩が目をそらし、

軽くため息をついた。







・・・・?




『先輩・・・?』




不思議そうに先輩の顔を伺う。






『・・・・・』





『・・・・・』







・・・・?







しばらく黙っていた先輩が、


呆れたように息をついたあと。




一言、ぽつりとつぶやいた。









『駄目だ・・・・。』





・・・だめ・・・?




なんのことかさっぱりわからず、不安そうに先輩を見上げる。










『やっぱり駄目だ。』






『何が・・・駄目なんですか・・・?』







『・・・その顔。・・反則。』






・・・・っ?







その瞬間。
体がふっと持ちあがる。





え・・・?えっ・・・・!?





気付くと先輩にお姫様だっこの状態で、体を抱えられていた。








『せっ・・・先輩っ・・!///』



『もう聞けない。ダメって言っても止めねえからな。』






ベッドに寝かされ、その上に先輩が覆い被さる。




・・・・////




嘘っ・・・ちょっ・・・そんなっ・・まだ・・




急な展開に慌てふためく私に、先輩はネクタイに手をかけ緩めた。






・・・・っ!////






『せっ・・・・先輩っ・・・』





『手はまだ出さないって決めてたのに。』



『・・・・!』



『ずっと触れたかった莉菜に少し触れられれば満足だったのに。あんな顔見せられたら・・・』



上から私を見下ろしながら、先輩が自分のシャツのボタンを片手で外す。




『もう絶対離さねえから。』






唇が重なる。




体の力が入らないためか、抵抗しようと先輩の胸に手を当てるが、びくともしない。






『・・・・先輩っ・・!ちょっ・・・待っ・・///』





『ダメだ。聞かねえっつったろ。・・・待ったなし。』





胸に当てた手を、優しく捕まれベッドに押さえつけられる。




そのまま先輩のキスに、何も考えられなくなった。





強引な言葉とは裏腹に、

優しい先輩の落ち着いた手つきが、体を熱くさせる。







『・・・っ・・先輩っ。』




先輩に触れられる度に、体が反応する。







『莉菜・・』





先輩が上から目を見つめる。






『・・・好きだ。』





深く唇が重なる。







・・・・先輩っ・・




先輩の体温を、身体を、こんなに近くに感じる。





強引な言葉でも、

先輩の優しい想いが、

腕から、身体全体に伝わってくる。







唇が離れた時、



先輩にぎゅっと抱きついた。





『・・・あたしもっ。好きです。先輩っ・・大好きっ・・』



『莉菜・・』










ぎゅっと強く先輩に抱き締められる。







先輩っ・・・


大好き・・・






丁寧で一つ一つ確かめるように動く先輩の手。





大好きな人に優しく包まれる幸せ。






その体温から感じる深い想いに、

体を委ねて、






ゆっくり、



目を閉じた。


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