Cross Over






一人、朝の屋上へと向かう。





ーーー。





本当に

守りたいものができた。






この幸せを、



守りたい。



大切にしたい。







莉菜と気持ちを確かめ合い、やっと一緒に過ごしていける。






ずっと願っていた幸せが


守りたいものが


今の自分の手の中にある。








ーーーー。


屋上の扉を開ける。






手すりから景色を見ているその背中に、ゆっくりとした足取りで近づき、声をかけた。






『沙織。』






声をかけられ、静かに振り向いた沙織の表情には、いつもの笑みがなかった。





『・・・・・』





しばらく沈黙が流れた。











『・・・呼ばれた理由はわかってる・・・。』


『どうして手を出した。』







感情を押し殺しながら

まっすぐ沙織を見る。








『・・・』






沙織が顔をしかめ、うつむく。


返事はない。










沈黙が続く。










『悪かったと思ってる。ひどいことしたと思ってる・・・』

『腹いせか?』




沙織の言葉を遮る。













『莉菜を傷つければ満足か?』






静かな俺の言葉に沙織が顔をあげる。







『でもあたしだって・・・!あたしだって俊くんを・・!』

『・・やってみろよ。』







低い声に沙織の表情が一瞬にして変わった。











『やってみろ。


俺はお前を許さない。』










沙織の表情が凍りつく。







『従妹だろうがなんだろうが、そうなれば関係ない。


家族のことなんか、始めから俺はどうだっていい。』






風が

間を通り抜ける。











『莉菜を傷付けたらその時は。



俺がお前を傷付ける。』










沙織の目が凍てついたように動かなくなった。









ーーーー。


一人、立ち尽くす沙織に背を向け



屋上をあとにした。




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