Cross Over
どれくらいの時間が経ったのだろう。
ソファーに深く凭れて目を閉じてから。5分かもしれないし、30分ほど経ったのかもしれない。
ガンガンと打ち付けるような頭痛が少し落ち着いてきて、顔を少しあげ彼のほうを見る。
少しあいた隣り。
静かに何も言わず、少しうつむいて。何かを考えているかのように、彼は隣に座っていた。
少し体勢を起こすと、それに気付き彼がこちらを見る。
『すいませんでした。あの、…本当に、…ありがとうございました。』
少しお辞儀をして彼の方を見る。
『…もう、大丈夫なのか?』
『大丈夫です。ほんと、急に…ごめんなさい。ありがとうございました。』
その時、…そうか、と呟いた彼の目がほんの一瞬。
安心したような力が抜けたような、優しい目をしたような気がしたが、
次の瞬間には、また。ふと元の表情に戻り、ゆっくりと立ち上がった。
『…立てるか?』
『…はい』
ゆっくりと自分も立ち上がる。
『…残業も、ほどほどにしろよ。』
そう言い残すと、彼は先に正面出口に向かいだした。
『あっ、あの…』
思わず、その背中に声をかける。
数歩進んだ先で彼が立ち止まり、何も言わずこちらを振り向いた。
『あの、ありがとうございました。…ずっと、隣にいてくれて。』
もっと感謝の言葉を言わなきゃいけないと思ったが、咄嗟に上手く言葉にならなかった。
『いや、別に。』
一言だけ言い残し、くるりと振り返り、外に向かい歩いていった。
頭痛がおさまるまで、帰るわけでもなく、何も言わずずっと静かに隣にいてくれた。
どこか感情の見えない、ぶっきらぼうにさえ思う言葉と態度。
でも、その中に優しさを感じるような。
彼が会社を出ていく背中を見つめたあと、ふと握っていたミルクティーの缶を見た。
それを見て、ふと。目を丸くした。
…どうして。このミルクティーを選んだんだろ。
このミルクティーは、仕事の休憩中、昔からあたしがいつも飲んでいるのと同じものだ。
考えようとしたその時、またズキズキとゆっくり頭痛が襲ってくる気配がした。
考えるのをやめて、バッグを持ち、
ミルクティーを飲みながら、
ゆっくり出口に向かって歩き出した。