Cross Over
ーーーーー。
ピアノの音が消えていく。
そっと鍵盤から指をおろす。
夜の部屋の中に沈黙が続く。
『・・・・・』
やっぱり・・こんなんじゃダメか・・
肩を落としそうになったその時。
『あなた・・・曲を作ったのはこれが初めて?』
先生の声が部屋に響いた。
『あっ・・はい。そうです。』
先生のほうに体を向ける。
『学生の頃から、頭に浮かんだものを音に弾いてみたりはしていましたが。完全に曲として作ってみたのは、これが初めてです。』
私の言葉に先生が、何かを考え込むように視線を落とす。
しばらく沈黙が続いたあと、先生がゆっくり息をついた。
『全く気付かなかったわ。』
・・・・?
先生のほうを見る。
『音楽には、
楽器を奏でる能力、歌唱する能力など、音を奏でることに長けている人と。
曲を作る、編曲する、など音を生み出すことに長けている人がいる。』
先生がこちらに顔をあげる。
『あなたは、演奏もできるけど、音楽を生み出す力が突出しているのね。』
えっ・・・
先生の言葉に目を見開く。
『やりましょう。この曲。』
先生がふと微笑む。
『こんないい曲を、このまま伏せておくのは勿体ないわ。』
先生の言葉に思わず、顔が綻んでいく。
先生がこちらに歩いてくる。
ピアノの上の譜面を覗きこむ。
『まだ間に合う。細かいアレンジは私が手掛けるわ。些細な部分を煮詰めて、1つの曲として完全に仕上げましょう。』
先生が力強く、微笑んだ。
顔が笑顔で滲んでいく。
『はいっ。ありがとうございますっ。』
笑顔でうなずき、譜面に視線を落とした。