Cross Over
『・・もう、話してくれないのかと思ってた。』
会社の中央にある広場へと出る。
先に広場に出た沙織の背中に向かって言葉をかけた。
沙織が立ち止まる。
『話せないかもと思ってたのは、あたしの方です。』
こちらを振り向く。
『・・・本当にごめんなさい・・。』
沙織が深く頭を下げた。
『沙織ちゃ・・』
『どう謝ったらいいか・・あたし。あんなことして・・先輩に・・っ』
『いいのっ。沙織ちゃんもういいから。頭をあげて・・っ』
頭を下げ続ける沙織に、慌てて言葉を返す。
『沙織ちゃんの気持ちも、いろんな想いあったんだろうし。怖かったけど、結局なんにも沙織ちゃんはしなかったんだし。』
目を開き見上げる沙織を見て微笑む。
『怒ったりなんかしてないから。もう大丈夫。』
驚いたようにしばらくこちらを見つめたあと、
はり詰めていた糸をほどくように沙織がゆっくり微笑んだ。
ーーーー。
『従兄なんです。俊くんは。』
広場のベンチに座り、飲み物を飲みながら沙織がつぶやいた。
『うん。あのあと聞いた。新崎先輩から。』
微笑んで、隣を見ると、
沙織がこちらを見たあと、ふと微笑んで地面を見つめた。
『ずっと好きだったけど・・・』
視線を落としたまま沙織が続けた。
『もういいや。敵わないと思って。黒川先輩には。』
ふと、諦めたように沙織が空を見上げる。
『もう、いいんです。』
沙織の横顔を見つめる。
『沙織ちゃん・・・』
沙織が微笑んでこちらを見る。
『俊くんの、黒川先輩に対する想いはすごく大きい。もう・・敵わないんですよ。』
沙織の清々しさを感じる目に、
ふと胸が落ち着き、
微笑んだ。
『沙織ちゃんは、まっすぐ人にぶつかることができるいい子だから。』
空を見上げる。
『そんな沙織ちゃんを、一番大切にしてくれる人。絶対いる。』
沙織を見て、確信したように微笑むと、
沙織がふっと優しい目をした。
『もう。どうもできないこともわかってるし、どうこうしようという気はさらさらないけど・・・』
沙織が足元を見つめる。
『まだやっぱり、完全にふっきれたわけじゃない。やっぱり・・まだ好きって気持ちはあります。』
沙織の言葉にうなずく。
『もちろん。そうだよね。』
そんな簡単にふっきれるような想いじゃなかったのは、わかっている。
時間がかかるのは当然だ。
『だから、二人の力になりたいと思うんです。それは・・』
沙織が少し息をつきながら上を見上げた。
『俊くんは、黒川先輩といることが幸せなんだから。俊くんが幸せになるなら、って。気持ちがあるからなんだと思います。』
沙織の横顔は、切なさが込み上げるような優しい、でも悲しい、そんな目をした表情だった。
『うん。』
その横顔を見たままうなずいた。
『俊くんを救ってあげてください。』
沙織がこちらを見る。
『心を傍に置いてあげてください黒川先輩。・・ずっと。』
沙織の目には涙が滲んでいた。
沙織の言葉から少し間を置いて、ゆっくりうなずいた。
『あたしはずっと先輩と一緒にいる。身体も、心も。なにがあろうと、先輩を支えていく。』
私の言葉に沙織が微笑みうなずいた。
沙織の手を、ぎゅっと握った。