Cross Over
控え室に戻り両親に背中をおされる。
『俊くんたちも見に来てくれてるんでしょ?頑張ってね。』
母が力強く勇気づける。
『うん。楽しく、弾いてくる。』
母に頷き、ホールの客席に戻る両親を見届けて、楽譜に目を落とす。
『黒川さん。そろそろ準備よ。』
先生が控え室の扉から顔を出す。
返事をすると、先生が微笑んで扉をしめた。
今回は、自分のためだけの演奏じゃない。
自分が描いた音譜にそっと触れる。
先輩・・・。
ずっと想いを寄せていた先輩と、結ばれたこと。
でも、
その記憶をなくしていたこと。
先輩が自分のこと想って、距離を置こうとしたこと。
でも、結局私たちは今二人で一緒にいる。
ぎゅっと、楽譜の上の手を握る。
先輩へ想いを寄せていた間に
かいた曲。
先輩への今の想いを、
ただ音にのせて届ける。
先輩とずっと過ごしていきたい。
いろんなことを乗り越えたい。
先輩に支えられながら、
先輩を支えたい。
よし。
行こう。
控え室に楽譜を起き、ホールの裏口に向かった。