Cross Over
ーーーーー。
舞台袖に立つ。
うわぁ・・・やっぱりすごい人。
二人前の奏者が、最後のお辞儀をした途端、大きな拍手があがる。
次の、次か。
不思議と先程より、緊張はなかった。
ステージの近くにきて、腹をくくった自分と、
そして、人のために弾くという想いからか、重い緊張が消えていた。
一つ前の奏者がステージにあがる。
舞台袖から見つめる。
ーーー。
音が何も聞こえなくなる。
ここから
神経を集中させる。
いつものやり方。
自分の世界に入り込む。
そっと目を閉じる。
ーーーー。
大きな拍手が聞こえた時、視線をあげた。
楽しく。
よし。
行ける。
ステージに向かって、右足から一歩を踏み出した。
会場の全注目が、注がれる。
前奏者がお辞儀を終えたあとの、拍手の中で
笑顔で次を譲るような仕草でこちらに手を伸ばす。
笑顔で微笑み、ピアノの前に座った。
拍手の音がしだいに小さくなっていく。
そのあと、
しん、と静まり返る。
ーーーーー。
いつもより
落ち着いている。
長く、息をつきながら、ゆっくりと目を閉じる。
自分の世界に入り込んだ時。
ゆっくり、鍵盤の上に指を添えた。