Cross Over






そこからは、何も考えていなかった。





ただ、




指が鍵盤を滑るように流れる。









ーーーー。





今までのこと。





そして、今の幸せ。











先輩のことだけを想っていた。








先輩にどんな闇があるのかはわからない。






だけど、





私がその闇を照らせるなら。






照らしたい。













先輩の優しい目が





頭をよぎる。










ーーーー。







一瞬のことのようだった。






気がつけば、






指は曲の



最後の鍵盤をおさえていた。












感情が込み上げてくる。







最後の音が響いたあと









間を置いて、






指を






おろした。

















ふと、鍵盤から視線をあげる。









『・・・・・』








終わった・・・。











その途端、


今までにない大きな拍手がホールに響いた。





ーーーーー。






光で目が眩むようなスポットライトがあたるステージで、




立ち上がり、客席に向かってお辞儀をした。







拍手の中に、指笛の音が聞こえる。


顔をあげると、観客の大勢が席を立ち、こちらに拍手を送っていた。











よかった・・・





ここでやっと自分が弾ききったことの実感が込み上げてくる。







終わったんだ・・・





鳴りやまない拍手の中で、次第に顔が綻ぶ。







今になって、胸がドキドキと脈打っているのを感じる。






胸に手をあて、落ち着かせるように、



もう一度深くお辞儀をし、





ステージを降りた。





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