ここでキスして。
「…あの、ずっと隣で見られてたら、やりづらいんですけど…」
さすがに耐えきれなくなって切り出した。
「いや、お前まじで女子力ねーなと思って」
「え、なに急に」
手を止めて遙を見上げると、ばっちりと目が合う。
久しぶりにこんなにちゃんと目が合った気がして、変に緊張してしまう。
ドキドキ、じゃなくて、蛇に睨まれた蛙みたな感覚だけど。
「…なんつー頭してんだよ」
「え?…って痛!」
ぐいっと1つに結んだ髪を引っ張られて、反動で顔が上向きになる。
痛い、ほんとに痛い。
ここに来るのに部屋着のままで髪も直すこともしなかったから、遙の言うように、本当に女子力のない格好だと思う。
適当なTシャツに短パンを着て、頭はボサボサのポニーテール。
「痛い痛い、離して!」
ジャイアンめ!
涙目になって訴えると、飽きたのかすぐ手を離した。
「小学生以下だな」
鼻で笑いながら呟かれる。
そのまま遙はリビングのソファーへ腰を降ろして、テレビのチャンネルを変えはじめた。
はいはい、もう用済みってことね。
洗い物を終えて、リビングでテレビを見ている遙に「帰るね」と声をかける。
のに、返事がない。
「は、遙?」
無視?え?存在消されちゃった?
ソファーに静かに近づくと、寝転がった遙の横顔が見えた。
黒髪の隙間から見える瞼は閉じられている。
「寝てる……」