ここでキスして。
「榛名くん、どしたの?」
私も小さな声で返事をする。
「今日この列、当たるんだっけ?」
「うん、たぶんそろそろプリントの答え合わせするよ」
「まじ?うわ、全然やってない…」
そう呟いて、ぐったりと机の上に突っ伏した榛名くんは、フリーズしたようにしばらく動かなくなった。
ふわふわの茶髪からつむじが見える。
「…私も友達の見せてもらったから、写す?」
私の声にパッと顔を上げる。
「え?いいの?」
目をキラキラさせながら私を見つめる榛名くん。
…なんか犬みたい。
後ろでしっぽをブンブン振ってるのが目に浮かぶ。
「うん、いいよ。はい」
「さんきゅー助かる!」
プリントを受け取ると同時にとびきりの笑顔を見せられて、危うく鼻血が出るかと思った。
思わず鼻をつまむ。危ない。
私の不可解な行動に「佐倉さん?」と不思議そうな顔をされたけど、気にしないでと目で訴えて前に向き直る。
それくらい榛名くんの笑顔は可愛いかった。
私の後ろの席の榛名真人(はるな まなと)くんは、学校でも有名な「眠り王子」だ。
ふわふわの色素の薄い茶色の髪に、よく笑う瞳。
甘いベビーフェイスなのに、背は高く引き締まった体をした榛名くんは、まさに王子様みたいで。
窓際の席でよく眠っているから、みんなから付けられた通り名は「眠り王子」。