春-始まりのうた-
あれからどれ位たったかな。
龍樹は女とでていった。
大好きなはずのアーティストが目の前にいるっていうのに。
歌すら私には聞こえなかった。
ただ、立ってることしかできなかった。
ーーー今日はみんなありがとね!
いつの間にかライブも終わって、
人波に流されながら会場の外まで
来ていた。
「あ、鞄...」
今更気付いた、私の鞄は龍樹が持ってたんだ。財布も携帯もない。
「帰れないじゃん」
思わず声が出た。
さっきまで沢山いた人達は影もなく
みんな帰って行ったのに、
やっぱ私はひとりぼっちなんだ。
「帰れないなら送ってやろうか?」
ねぇ、あんなに沢山の人の中から
貴方は私を見つけてくれたの?
出逢いは突然、思いもしない
出来事だったね。