たゆたえども沈まず

酔っているのか、久喜から返事がない。

「酔ってるの? 大丈夫?」

『マジだ。すげーのな、のんちゃん』

すごいって、それは携帯アプリに言ってもらいたい。

思いの外普通に話せたのでホッとする。

『聞いてよ、のんちゃん。昨日さ、女と飲んでたら金ごっそり盗られてさ』

へらへら笑っている。

『帰りのタクシー代くらい残しておいて欲しいよな』

「今、どこにいるの?」

『歩いてやっと家の前』

「すぐ行く!」

電話を切って、ピアスと財布とパーカーを羽織って部屋を出た。

階段を降って玄関で靴を履く。リビングからお母さんが出てくる音がした。


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