たゆたえども沈まず

手を繋がれて引っ張られる。久喜の手は温かい。

「今日の夕飯は鯖の味噌煮だって」

「お母さん、久喜が来てから色んなもの作るようになったなあ」

「それは喜ばしいことだ」

紫陽花の道を歩く。梅雨にここを歩いたな、と思い出した。

あのとき、現れた久喜に驚いた。そして久喜は私を待っていたと言った。私に会える気がしたから、と。

「バイトするの?」

「雇ってくれそうなアテは結構あるんだけど、繁華街とは関係ない仕事したくて」

「……どうして?」

きっと繁華街なら、久喜のお友達も沢山いるだろう。



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