たゆたえども沈まず
頬が赤くなるのを感じた。
こうやって口説いてきたんだろう、と思う。しれっと普通の顔で言ったりして。
私はそうして久喜を好きになる女の一人にはなりたくなかった。
でも、現実はどうだろう。
「か、鞄返して」
「え、なんで」
「いいから返して!」
「盗らないって。今無一文だから説得力ないかもだけど」
可笑しそうに久喜が言う。
そんなことを言わせたいわけじゃない。
私は久喜に鞄を持たせて鼻を高くする女にはなりたくないと思っていた。
「違うの……」
「なに、何か必要?」
静かになった私に、慌てて久喜が手を離して鞄を見せる。