たゆたえども沈まず

先輩とすれ違って行ってしまった。久喜がこちらを見て、手の力を抜いてくれる。

「ごめん」

「ううん……八つ当たりって何?」

「……あいつ、のんちゃんにベタベタしすぎ」

「……はい?」

「学校にいるときはあんまり気にならなかったけど、海行ったときとか、温の隣陣取ってたろ」

「それは、私が動かなかっただけで」

「そう、それでニコニコしてる温に八つ当たり」

へ、と口から声が漏れる。ニコニコしてたっけ、私。それは久喜みたいにトゲトゲはしていないけれど。

海のとき、八つ当たりしたのは私の方だ。


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