たゆたえども沈まず
「まだ温ママには言ってないんだけど、俺バイト決まったら家帰る」
「え……」
私がスポンジで洗った食器を久喜が濯ぐ。
手が止まると、久喜がこちらを見る。
「まあずっと居るわけにはいかないし」
「うん、そうだよね」
自分でも分かりやすいと思うくらい気分が落ち込んだ。今日は吉日じゃなかったのか。
久喜が『結婚したら』と言うから、色々期待した。
こうして上げて落とされていくのか……。
「温」
名前を呼ばれて顔を見上げる。慣れたように唇が重なった。
「な……っ」
しー、と長い指が唇の真ん中に立てられる。お母さんそこにいるのに。ちら、と見るとテレビに夢中らしい。