たゆたえども沈まず
そのバイトが決まってすぐに久喜は髪を黒く染めた。小学校のときの久喜を思い出した。
「バイトだった?」
「今日もオーナーにしごかれた」
「コーヒーの淹れ方?」
「そう。あ、そういえば、金返ってきたんだ」
久喜はスラックスのポケットから財布を出す。誰に金を貸していたのだろう、と少し考えて、松潟先輩の顔を思い出した。
ちゃんと返したらしい。良かった。
「温でしょ、あの人脅したの」
「え? 脅したりはしてないよ。どちらかというと……」
「じゃあ実和かな。あいつ、温のことかなり好きだから」
みわ……? 初めて聞く名前なんですけど。