たゆたえども沈まず

こうして、久喜の背中を見ていると、刷り込みにかかったカルガモの気持ちになる。お母さんを間違えてしまったのか。

「寂しいね」

お金が全てじゃないと言い切る頭を私は持っていないけれど、全てだと信じてしまうのは寂しすぎる。

そんなの、物理的なもの以外は存在として却下されているのと同じになってしまうんじゃないの。

「全然。友達も物も金で手に入る」

それを久喜の口から聞くとは思わなかった。

思わず、その腕に手を伸ばす。触れると驚くみたいに止まって私を見た。

久喜は頭が良い。何もしなくたって試験で上位を涼しい顔で取れる。顔も頭も良いのかと思えば、神様は本当に酷い。

でも、時折、本当に生粋の馬鹿だなあと感じることがある。



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