たゆたえども沈まず
雨の匂いは優しい。
私の髪はストレートだから湿気で髪がどうこうなるわけじゃない。それもあってトイレで髪をセットする女子の気持ちは分からない。
プリンス先輩の笑いがおさまって、答えてくれた。
「あの場所は自分を守ってくれるって思うから」
グラウンドの方で笑い声がする。
ラケットが振られる音。お弁当が広げられる匂い。固い机の感触。自分から外れるように目の前で作られる輪。
「先輩にも、怖いものがあるんですね」
「うん?」
「だから自分を守りたいんじゃないんですか?」
天然なのか、茶色い髪は全然傷んでいない。先輩は少し考えた顔をして、少し目を伏せた。
「怖いっていうか、抗えないもの、かな」