たゆたえども沈まず

雨の匂いは優しい。

私の髪はストレートだから湿気で髪がどうこうなるわけじゃない。それもあってトイレで髪をセットする女子の気持ちは分からない。

プリンス先輩の笑いがおさまって、答えてくれた。

「あの場所は自分を守ってくれるって思うから」

グラウンドの方で笑い声がする。

ラケットが振られる音。お弁当が広げられる匂い。固い机の感触。自分から外れるように目の前で作られる輪。

「先輩にも、怖いものがあるんですね」

「うん?」

「だから自分を守りたいんじゃないんですか?」

天然なのか、茶色い髪は全然傷んでいない。先輩は少し考えた顔をして、少し目を伏せた。

「怖いっていうか、抗えないもの、かな」





< 22 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop