たゆたえども沈まず

蘭子といいプリンス先輩といい、私を買い被り過ぎだと思う。

「そんなに要領よくないです」

「学年トップが要領良くないなら、この学校終わってるから」

階段を降りる斜め前の先輩の笑う背中を見る。

「あ、」と声が聞こえて、振り向いた。

「のんちゃんは較べてる対象がクキだからか」

核心をつかれた。

思わず視線を逸らしてしまう。こんなの身体全部で肯定しているのと同じだ。

昇降口から見る空は青い。暗い場所から見る空は一段と青い。


「好きだね、クキのこと」


言葉にされるとむず痒い。くすぐったくて、自分の口から発されたことのないそれは、他人事のように消えていってしまう。

いつもそう。



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