たゆたえども沈まず
久喜が話しかけてこなかったら、きっと関わらないまま進んでいた。
さらさらとしたこげ茶の髪が目に入って、前から来る女子高生くらいの子の顔を見た。
か、考えていたからかな、久喜のこと。
「あ」
向こうも小さく声を漏らして会釈をする。私も会釈をし返した。
綺麗だし可愛い。久喜の妹さん、名前は……知らない。
プリンス先輩の弟くんに会いに行くのかな、と短絡的なことを思った。
私服ってことは、もう高校夏休みに入ったのかもしれない。
あれから久喜の姿を見ていないなあ、なんて思った。
思うだけでは、会えないんだって知ってるけれど。