たゆたえども沈まず
最寄りの駅でおりて、蘭子と別れる。
「温先輩」
呼ばれ慣れない名前。というより、呼ばれたことのない名前。
放送部に後輩はいないし、私は小中と部活に入っていない。
いや、私のことじゃないって可能性も……。
「こんにちは」
にこりと笑った顔が視界の横から入ってくる。その顔はどこか久喜に似ていた。
「こ、んにちは」
久喜の義理の妹さん。驚いて言葉が詰まってしまった。
話すのは初めて。その筈なのに、彼女は笑みを見せて挨拶をして行ってしまった。
……謎深まる。