たゆたえども沈まず

久喜もそれを見て眉を顰めた。

「なんでこんなにいんの?」

「クキが海に行くっつったらみんな行きたいってさ」

「乗れねえじゃん」

親指を後ろに向けた男の人。久喜がその方向を見たので、私も顔を向ける。

後ろにも一台、同じように三列シートの大きい車。運転席にいるのはベリーショートの女の人だった。

「クキ、こっち乗りなよ」

窓から顔を出す。久喜が私の方を振り向いて、少し肩を竦めた。

その意味は分からなくて笑って返してみる。

そして、手を掴まれた。



< 54 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop