たゆたえども沈まず

久喜は黙ったままだった。

皆のいる方から「クキー! ご飯買いに行くよ!」と女の声がする。

視線がそっちに向いて、手が解かれた。

背中を向けて数人の男女の方へ歩いて行ってしまう。

「久喜」

呼んでみたけど無視された。
いつもなら、そんなことは呆れて受け入れてしまうのに、心の中で色んなものが溢れてしまった。

急に誘ったり不機嫌になったり楽しそうだったり無視したり。

気紛れな久喜に振り回されている。

「勝手にすれば……!」

言ってしまった。後悔が襲ってくる。

くるり、とさっきは返事をしなかった久喜がこちらを見る。

「そうするけど」


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