たゆたえども沈まず
風が吹いてきた。もう夕方だ。
「なんだろ、多くの人が思ってるんだけど言えないことを口にできる勇気が瀧本にはある」
「それは、なんとなくわかる気がします」
部長は同じことを二度聞くと嫌な顔をする。
それがあまり教室に行かないのと関係があるのかは分からないけれど。
部長の美声はただ備わっているわけではないのだと思う。
「あ、のんちゃんの方が部長のこと知ってるに決まってるか。俺より長く一緒にいるよね」
「長さじゃないと思いますよ」
遊び疲れた人達がどんどん荷物置き場に帰ってきている。
久喜もパーカーを手に持って海から戻ってきた。