ことり公園。
「絵鳩(えばと)コウヤです、……わかるかな。」


 その名前が、わたしの中の微かで、淡い記憶と、重なった。


 ――『絵鳩 コウヤです。よろしく。』


 これは確か、……小学校に入学してすぐのこと。


 彼はあの時丁度新しく建てられた、隣の家にに引っ越してきた。


 3歳年上だった彼は、当時のわたしには少し大人びて見えて、少し怖くもあったし、憧れでもあった。


 そして確か彼の家は、……父子家庭で、2人暮らしだった。


 それなのになぜあんな大きな家に引っ越してきたのかは、謎のままだ。


 ――『すずはら、……ことりです。』



 ただ、今目の前に居る人は、わたしの記憶の中とは全く違って、面影はあっても、名前を言われなければ、すぐにはわからなかっただろう。


 実際、それ以降関わりがあったのかも、どんな風に接していたのかも覚えてはいない。


「少しだけなら……。」


 そう思いながらも、わたしがそう答えると、彼は表情を明るくして嬉しそうに笑った。


「じゃあ他の2人のことは、わかる?弟の、こうたと、ミチル。」

「……」


 少しの間考えてみたけれど、わたしの記憶の中にその並べられた名前はなかった。


 黙り込んだわたしに、コウヤさんはバツが悪そうに空虚な笑い声を発した。


「ごめん、……混乱させるようなこと言ったかな。」

「いえ、……大丈夫です。わたしこそ、ごめんなさい。」

「……そうだ、俺、いい物持ってきたよ。ことりちゃんが寂しくないように。」


 流れた気まずく息苦しい空気を塗り替えるように、コウヤさんは明るく言い放った。


 正直わたしは、胸が痛かった。


 両親にもそうだったけれど、こうして気を遣わせてしまっていることが、なによりも。
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