ことり公園。
「小鳥遊、ずっりーーー!」


 教室に響きわたる大きな声に、俺はため息をつき、本に向けていた視線をそれを発した人物に移し、睨みつける。


 本人、鳥居(とりい) たかひろも、周りからの視線に恥ずかしくなったのか、小さくやべ、と呟いた。


 中高一貫のこの学校は、中等部からの持ち上がりと、高等部からの入学者がひとクラス半々くらいに分かれていた。


 こいつは中等部からの持ち上がりで、中学の頃からいくら無視してもやたらと俺にくっついてくる変な奴だった。


 俺が本に視線を戻すと、たかひろは先程より声のボリュームを抑えて続けた。


「ほんとずるいよお前、俺と代われよ。」


 なんのことだかわからなかった俺は、考えている間にどこを読んでいたのかわからなくなり、また戻りながら、結局なにが、と問う。


「なにが、ってお前、……行事委員に決まってるだろ!」

「……やりたかったんなら、立候補すればよかったじゃん。」

「いやいや、そういう意味じゃなくて。」


 たかひろの言っていることがますます訳がわからなくなり、俺は本をぱたりと閉じる。


「……言ってる意味、わかんないんだけど。というか、代わってほしいんなら、俺、全然代わるけど。」


 俺のこの言葉を期待していたのか、たかひろは目を輝かせ、俺の両手を握った。


「ほんとに!?ほんとに!?なあほんと?」


 予想外の反応に、俺は思わずたじろぐ。


 すると誰かが、たかひろの後頭部を思い切り叩いた。


 ゴッ、と鈍い音に、俺まで頭が痛くなりそうだ。


「あんた、委員長に立候補したでしょーが。」


 痛さに涙目になりながら、頭を抑えるたかひろの後ろから顔を出したのは、たかひろ同様、中等部からの持ち上がり、鶴田(つるた) ひなのだった。
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