ことり公園。
 翌朝、寝坊してしまった俺は、いつもの電車に乗るために、慌ててホームまでの階段を駆け上がり、既に到着していた電車に飛び込んだ。


「あっ。」

「あっ。」


 その扉のすぐそばに、見知った顔があって、俺たちはほぼ同時に声をあげた。


 そこにいたのは、鈴原だった。


「おはよう……。」

「……はよ。」


 昨日のこともあってか、どこか小っ恥ずかしくて、素っ気なく返し、後頭部を掻いていると、突然乗り込んできた小太りの男性のタックルを背中に受けた。


 俺と鈴原の距離が、一気に縮まり、既に沢山の人が乗っていた車内では、身動きもしづらくなってしまった。


 俺の胸元に、鈴原の顔がある。


 俺は無駄だとわかっていながらも、後方を睨みつけた。


 扉はゆっくりと閉まり、電車は出発する。


「……ごめん、鈴原。ちょっとだけ我慢してて。」

「……うん。」


 鈴原が少し恥ずかしそうに俯いて、俺からはつむじだけしか見えなくなった。


 途端、ガタン、と電車が大きく揺れて、鈴原の髪から、優しいシャンプーの香りがした。


 何処か気まずくて、俺は窓の外へと視線を送ることにした。


 ……暑い。


 走ったせいか、人が密集しているせいか、額にじわじわと汗が滲んできたのを感じる。


 ガタン、電車がまた、大きく揺れる。


 目の前の鈴原が、そのせいでバランスを崩した。


 俺はその華奢な肩を慌てて受け止める。


「ご、ごめんなさい……。」

「……うん。」


 ……暑い。


 俺は、早く駅に着かないかと、青空と高い建物の見える窓に、憂いを含んだ視線を送った。
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